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令和6年1月 財務大臣年頭所感

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 令和6年の年頭に当たり、謹んで新年の御挨拶を申し上げます。
 1月1日に最大震度7の能登半島地震が発生いたしました。この地震により亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、被災された全ての方々に心からお見舞いを申し上げます。

 2021年10月に財務大臣兼金融担当大臣を拝命してから2年以上が経過しましたが、この間の内外経済を顧みますと、ロシアによるウクライナ侵略や未曾有の物価高騰、世界的な金融引締めなどを背景とした為替変動や金利上昇など、急激な変化が続きました。また、中長期的な観点からは、人口減少・高齢化、気候変動、デジタル化といった構造変化が依然として重要課題として立ちはだかり、日常生活にも大きな影響を及ぼし続けています。

 このような変化を前に、私たちはただ動揺し萎縮していてはなりません。政府としては、まずはこうした変化が及ぼす悪影響から国民生活と事業活動を守り抜くために万全を期する一方で、こうした変化をむしろチャンスとして捉え、将来の経済成長につなげていくための政策を、知恵を絞って検討し実現してまいりたいと考えております。
 具体的には、以下に掲げる3つの抱負を胸に、新年を「辰年」の名にふさわしい力強い成長の年とし、希望ある社会を次世代に引き継げるよう、経済財政運営に全力を尽くしてまいります。

1 デフレから脱却し力強い経済成長を実現する

 1つ目は、デフレから脱却し力強い経済成長を実現することです。

 バブル崩壊以降の30年間、日本はデフレに悩まされ続けてきました。デフレによる需要停滞と新興国とのコスト競争を背景に企業はコストカットを優先せざるを得ず、国内投資も労働者の賃金も抑制されてきました。その結果、イノベーションの停滞や中間層の減少といった新たな課題にも直面してきました。岸田内閣では、こうしたコストカット型の経済からの悪循環を断ち切るべく、デフレからの脱却をマクロ経済運営上の最大の課題として様々な取組を進めてまいりました。
 足元では明るい兆しも見え始めています。昨年、日本経済は30年ぶりとなる高い水準の賃上げや過去最大規模の設備投資を実現し、コロナ禍で過去最大となった50兆円にも及ぶGDPギャップは解消しつつあります。物価や賃金は上がらないという意識は確実に変化してきており、このような変化が起こりつつある今こそ、デフレ脱却への歩みを大きく進めなければなりません。

 昨年11月には、「デフレ完全脱却のための総合経済対策」を策定し、その裏付けとなる令和5年度補正予算を編成しました。具体的な方針として、まずは目の前の物価高騰にしっかりと対策を講じていくこととしております。一昨年来、値上げのニュースが頻繁に聞かれるようになり、消費者物価は3%前後と、高い水準で上昇が続いております。こうした物価高が家計や企業の過度な節約につながり、デフレ脱却のチャンスの芽が摘まれることがあってはなりません。そこで、生活必需品である燃料油、電気・ガスの価格抑制措置を春まで延長するとともに、とりわけ物価高の影響が大きい低所得者世帯に対し、1世帯あたり10万円の給付を実施することとしました。

 また、デフレ脱却のために何よりも重要なことは、持続的な賃上げの実現です。賃金上昇率から物価上昇率を差し引いた実質賃金は1年半以上もマイナスが続いており、賃上げの力強さをより高めていく必要があります。
 令和5年度補正予算、そして昨年末にとりまとめた令和6年度予算では、賃上げ促進に向けた様々な支援策を盛り込んでおります。例えば、中堅・中小企業向けには省力化・効率化投資への支援を行うとともに、下請けGメンの増強などを通じ適切な価格転嫁を図ることで、賃上げがしやすい環境を整備してまいります。また、医療、介護、障害福祉、保育士、教職員などの分野における賃上げについても、処遇改善のために必要な予算措置を行ったところです。さらに、令和6年度税制改正では、賃上げ促進税制を抜本的に強化し、赤字の中小企業にとっても使い勝手がよい仕組みにするなどの工夫を行いました。
 このように、賃上げに向けた環境整備に全力で取り組んでまいりますが、それでもなお、私たちの心に染みついたデフレマインドを払拭し、賃上げが物価高を超える状況を実現できるかは確実ではありません。そこで、幅広い方々の可処分所得を直接的に下支えすることで、思い切った消費につなげていただくべく、令和6年度税制改正で所得税・住民税の定額減税を講じるとともに、関連した給付を行うこととしております。

 加えて、賃上げの原資となる付加価値を継続的に高めていくためには、企業の投資意欲を後押しし供給力の強化を図ることが不可欠です。具体的には、フロンティアの開拓、GX・DXなどを強力に推進すべく、例えば、令和6年度税制改正ではイノベーションボックス税制を創設し、無形資産投資を後押ししてまいります。また、戦略分野国内生産促進税制を創設するなど、電気自動車、半導体などの戦略分野で過去に例のない措置を講じることで、全国規模で大型投資を呼び込んでまいります。

2 国民が安心して生活できる社会を構築する

 2つ目は、国民が安心して生活できる社会を構築することです。

 能登半島における地震や台風6号・7号などの自然災害が、日本全国の広い範囲に深刻な傷跡を残しました。南海トラフ地震、首都直下地震などの発生も懸念される中、激甚化・頻発化する自然災害から国民生活を守り抜くためには事前防災が不可欠です。令和5年度補正予算、令和6年度予算においても、災害復旧に加え、防災・減災、国土強靱化に予算を重点化いたしました。国土強靱化の取組による防災・減災の効果はこれまでも着実に発揮されてきており、災害に強い社会の実現に向け、引き続き必要な予算措置を行ってまいります。

 国外に目を向けますと、ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の緊迫化などを背景に、世界や日本の安全保障環境は非常に厳しくかつ複雑化しています。こうした中で国民の生命と財産を守るべく、令和9年度までに43兆円規模の防衛力の整備を進めることとしており、令和6年度予算においても、統合防空ミサイル防衛能力の向上など、防衛力の強化を着実に進めることとしております。
 また、防衛力の強化のためには安定的な財源の確保が不可欠であり、まずは徹底した歳出改革などにより財源を捻出することとした上で、それでもなお足りない部分については、所得税、法人税、たばこ税による税制措置でお願いすることとしております。この税制措置については、令和6年以降の適切な時期に実施することとされておりますが、令和6年度予算では、決算で発生した剰余金を活用するなど、税制措置以外での方法により財源を確保することといたしました。

 さらに、国際社会が分断や対立の様相を呈している中においては、改めて国際協調の必要性を粘り強く訴えていく必要があります。昨年、日本はG7議長国として、ウクライナ支援やロシア制裁、途上国の債務問題や国際金融機関の改革をはじめ、世界経済が抱える様々な課題について議論を主導してまいりました。また、G7のような会議の場だけでなく、各国の財務大臣や国際機関のトップと膝詰めで議論を行い、様々な課題について個別の利害を超越した国際協調を図ってまいりました。

 加えて、日本の平和と安全や経済的な繁栄を確保するためには、経済安全保障の観点も見逃せません。例えば、自国産業の国際競争力の維持・向上に資する半導体などのサプライチェーンの強靱化に関わる国際協力銀行(JBIC)に対し、令和6年度財政投融資計画ではその支援を行うべく必要な資金を措置したところです。また、水際を担う税関においては、軍事転用のおそれのある製品や技術の流出につながる不正輸出の防止に引き続き取り組んでまいります。

3 将来世代に豊かな経済社会を確実に引き継ぐ

 3つ目は、将来世代に豊かな経済社会を確実に引き継ぐことです。

 そのためには、日本が直面する最大の危機である少子化に対応していくことが不可欠です。2022年に生まれたこどもの数は77万759人と、統計を開始した1899年以来、最低となりました。若年人口が急激に減少する2030年代に入るまでに少子化トレンドを反転できなければ、人口減少を食い止めることはほぼ不可能となり、豊かな経済社会を引き継ぐことも困難となります。
 岸田内閣では、こども・子育て政策を一丁目一番地の政策課題として様々な取組を進めてまいりました。昨年12月には「こども未来戦略」を決定し、児童手当の拡充をはじめ当面の集中的な取組である「加速化プラン」の規模を3.6兆円程度とするなど、こども・子育て政策を抜本的に強化しました。また、これだけ大きな予算を借金で賄い、将来世代にツケを回すのでは、こどものための政策としては本末転倒です。そこで、「こども未来戦略」では社会保障分野における徹底した歳出改革にも取り組み、政策実現に必要な安定財源を確保する枠組みについても決定しました。

 しかし、こども・子育て政策の財源を確保できたとしても、日本の財政事情は既に厳しい状況にあり、毎年多額の借金に依存している現状を改善していかなければ、こども世代に負担を先送りしている構造を変えることはできません。とりわけ、近年、新型コロナや物価高騰への対応として、これまでにない規模の補正予算を編成し続けてきたことから、財政状況はより一層厳しさを増しています。
 令和6年度予算ではこうした状況を踏まえ、徹底した歳出の見直しを行いました。まずは、コロナ禍から平時への移行が進むなか、多額の予算を計上していたコロナ・物価予備費については、その役割を終えつつあることを踏まえ、思い切った削減を行いました。また、こども・子育て政策や防衛力の強化、科学技術振興など、社会課題の解決や成長力の強化に必要な予算については重点的な対応を行う一方で、重複投資の排除や長期契約の活用など、予算の適正化や効率化を通じた歳出抑制努力をあわせて行うことで、メリハリの効いた予算に仕上げております。
 こうした努力の結果、令和6年度予算の歳出規模や新規国債発行額は、対前年度比で減額となり、歳出構造の平時化に向けた一つの道筋を示せたのではないかと考えております。
 他方、歳入全体で公債に依存する割合が依然として3割を超えるなど、諸外国を見渡しても過去を振り返っても日本の財政状況が極めて厳しいことに変わりはありません。財政の悪化がその信認を傷つけ、ひいては国の信用が損なわれるようなことは何としても避けなければなりません。政府としては、2025年度のプライマリーバランス黒字化や債務残高対GDP比の安定的な引下げという財政健全化目標の達成に向け、今後とも気を緩めることなく歳出・歳入両面の改革に努めてまいりたいと考えております。

 最後に、財政を通じて展開される政策は、国民の皆様からの納税で支えられており、デジタル化などの環境変化が起こる中においても、納税者の皆様が適切に納税義務を果たすことができるよう、財務省・国税庁をあげて、引き続き納税環境の改善に努めてまいります。また、昨年10月にインボイス制度が開始され、制度の定着に向け様々な支援を行ってまいりましたが、今後とも施行状況をしっかりとフォローアップしつつ、丁寧かつ柔軟な対応を行ってまいります。

4 結び

 以上、今後の経済財政運営についての抱負とその主な取組について申し述べてまいりました。
 本年7月には20年ぶりとなる改刷が予定されており、新しい一万円券の肖像には渋沢栄一、五千円券には津田梅子、一千円券には北里柴三郎が採用されることとなりました。幕末の開国という歴史的な大転換を迎えた時代にあって、経済、教育、医学の面で偉大な業績を残されたことに改めて敬意を表するとともに、バトンを引き継いだ現代を生きる日本人の一人として、期待される役割をしっかりと果たしていけるよう、本年も副大臣、政務官、そして総勢7万人からなる財務省職員とともに、一意専心、職務に励んでまいる所存です。

 本年が皆様にとって良い一年となりますよう祈念しまして、新年の挨拶とさせていただきます。

財務大臣 鈴木 俊一