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第151回国会における宮澤財務大臣の財政演説

 

平成十三年一月三十一日

 

   平成十三年度予算の御審議に当たり、今後の財政政策等の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、予算の大要を御説明いたします。

 

(はじめに)
 我が国は、戦後半世紀の間に敗戦の荒涼からの復興と高度成長を成し遂げ、世界経済におけるその地位を築き上げましたが、二十世紀末に至って、内外情勢の大きな変化に直面することとなりました。すなわち、バブル経済の崩壊及びその後の景気の長期的低迷により、それまでの右肩上がりの経済は変容を余儀なくされ、また、少子高齢化の進展、経済のグローバル化やソフト化、情報化といった構造変化も急速に進んでおります。
 このような状況の下、我が国経済社会が、新しく迎えた二十一世紀において安定的に発展するためには、まず我が国経済を自律的回復軌道に乗せることが重要でありますが、同時に、我が国経済社会の抱える構造的諸課題に対処していくことが求められております。
 このような努力を通じ、我々は二十一世紀における我が国の繁栄を築いていかなければならないと考えており、今後の財政政策等の運営に当たっては、以下に申し述べる諸課題に、全力を挙げて取り組んでまいる所存であります。

 

(自律的な景気回復の実現)
 第一の課題は、二十一世紀の新たな発展基盤を構築しつつ、景気を自律的回復軌道に乗せることであります。
 我が国経済の現状をみますと、企業部門を中心に自律的回復に向けた動きが継続し、全体としては、緩やかな改善が続いております。しかしながら、依然として雇用情勢は厳しく、個人消費もおおむね横ばいの状態が続いており、公需から民需への円滑なバトンタッチに万全を尽くす必要があります。
 こうした認識の下、まずは、先の国会において成立した平成十二年度補正予算の円滑かつ着実な執行に努めております。
 また、平成十三年度予算においては、総額七千億円の「日本新生特別枠」を活用し、IT革命の推進、環境問題への対応、高齢化対応、都市基盤整備の四分野を中心に、我が国の新たな発展基盤の構築に資する施策に重点的な予算配分を行いつつ、公共事業について、平成十一年度以降三年連続となる高水準の公共事業関係費を確保するとともに、公共事業等予備費三千億円を計上するなど、自律的な景気回復の実現に向けて十分な対応を行うことといたしました。
 税制については、我が国企業の経営環境の変化を踏まえ、企業組織再編成に関わる税制を整備するほか、景気回復に配慮して、新たな住宅ローン減税制度を創設するとともに、中小企業投資促進税制を継続するなどの措置を講じております。また、株式等譲渡益についての申告分離課税への一本化を二年延期するほか、電子計算機の耐用年数の見直しや特定非営利活動法人を支援するための措置等を講ずることとしております。
 なお、一昨年から実施している個人所得課税及び法人課税の減税は、景気の改善に寄与していると考えております。

 

(財政の効率化・質的改善)
 第二の課題は、財政の効率化と質的改善を進めることであります。
 平成十三年度予算においては、厳しさを増している財政状況に鑑み、財政の効率化と質的改善を図るため、次のような措置を講じたところであります。まず、公共事業について、個々の事業の徹底した見直しにより、投資効率の乏しい事業を中止いたしました。また、地方財政対策において、新たに特例地方債を発行し、併せて交付税及び譲与税配付金特別会計への繰入額を増額する等の制度改正を行うことにより、国・地方を通ずる財政の更なる透明化を推進することといたしました。さらに、中央省庁等改革を機に、施策の融合化と連携を図る等の取組みを行ったところであります。
 また、公債発行額については、一方で金融破綻への備えのための国債償還費の手当てを行う必要がなくなったという減要因があり、他方で只今申し述べました地方財政対策に伴う増要因がありますが、このような状況の下、可能な限りの縮減を図ることといたしました。これらの結果、平成十三年度の公債発行額は前年度当初予算より四兆二千九百二十億円減額し、また、公債依存度は四・一ポイント減少して三十四・三パーセントとなる見込みであります。
 しかしながら、平成十三年度末の国・地方の長期債務残高が六百六十六兆円に達する見込みであるなど、我が国財政は依然として極めて厳しい状況にあり、今後、我が国が安定的に発展するためには、財政構造改革は必ず成し遂げなければならない課題であります。
 財政構造改革に当たっては、あるべき経済社会の姿を展望しつつ、望ましい税制の構築や社会保障制度改革、中央と地方との関係まで幅広く視野に入れて議論していく必要があると考えております。今後、経済財政諮問会議などの場において、只今申し述べました問題意識も念頭において、経済・財政の構造改革に向けた諸課題について検討を行ってまいります。

 

(世界経済発展への貢献)
 第三の課題は、世界経済の安定的発展に貢献することであります。
 経済のグローバル化が進む中で、自由かつ公正な国際経済社会の実現やその安定的発展に向けて、世界経済の中で大きな地位を占める我が国が主体的な役割を果たすことが求められていることは論を待ちません。アジア通貨危機の経験から、我が国がアジア地域との連携を強化し、その経済安定に積極的に寄与していく必要性も一層高まっております。このような認識の下、国際通貨システムの安定に取り組むとともに、昨年五月にASEAN諸国及び日本、中国、韓国の財務大臣間で合意された「チェンマイ・イニシアティブ」の推進等、アジアにおける地域協力の一層の強化に努力してまいります。
 また、多角的自由貿易体制の維持・強化の観点から、我が国はWTOにおける新ラウンドの早期立ち上げのため引き続き努力してまいる所存であります。併せて、これを補完する観点から、二国間の自由貿易協定にも取り組むこととし、現在、シンガポールとの間で、本年末までの終了を目指して協定交渉を進めております。さらに、平成十三年度関税改正において、開発途上国からの輸入品に対して低い関税率を適用する特恵関税制度の改善等を行うこととしております。

 

(平成十三年度予算の大要)
 次に、今国会に提出しております平成十三年度予算の大要について御説明いたします。
 まず、歳出面については、一般歳出の規模は四十八兆六千五百八十九億円となり、前年度当初予算に対して一・二パーセントの増加となっております。
 国家公務員の定員については、五千九百八十八人に上る行政機関職員の定員の縮減を図っております。補助金についても、その整理合理化を積極的に推進しております。
 一般会計全体の予算規模は八十二兆六千五百二十四億円、前年度当初予算に対して二・七パーセントの減少となっております。
 次に、歳入面について申し述べます。
 租税等については、先に申し述べました税制改正を織り込み五十兆七千二百七十億円を見込んでおります。
 公債発行額は、前年度当初予算より四兆二千九百二十億円減額し、二十八兆三千百八十億円となっております。特例公債の発行については、別途所要の法律案を提出し、御審議をお願いすることとしております。
 財政投融資計画については、財政投融資改革の趣旨に則り、資金の重点的・効率的な配分を図ることとしたところであり、その規模は三十二兆五千四百七十二億円となり、前年度当初計画に対して十五パーセントの減少となっております。
 次に、主要な経費について申し述べます。
 社会保障関係費については、将来にわたり持続可能で安定的・効率的な社会保障制度の構築に向けた取組みを行いつつ、メディカル・フロンティア戦略の推進等を図ることとしております。
 公共事業関係費については、効率化と質的改善を進めることとし、具体的には、再評価制度の厳格な適用により、二百七十二件の事業を中止するとともに、IT革命の推進等我が国経済社会の新生に資する施策に対し、最大限の重点化を行っております。
 文教及び科学振興費については、創造的で活力に富んだ国家を目指して、少人数指導の実施等教育改革の推進のための環境整備、高等教育・学術研究の充実、競争的資金の拡充等による科学技術の振興等の施策の推進に努めております。
 防衛関係費については、新たな中期防衛力整備計画の初年度予算として、効率的で節度ある防衛力整備を行うこととしております。
 農林水産関係予算については、新たな基本法に基づく食料・農業・農村基本計画の着実な推進や、林野・水産分野における担い手の確保・育成等に重点を置いた施策の推進等に努めております。
 経済協力費については、更なる効率化・重点化を促進しつつ、国際社会の安定と発展に貢献するための諸施策を推進しております。
 エネルギー対策費については、地球温暖化問題への対応等総合的なエネルギー対策を着実に進めております。
 中小企業対策費については、IT革命への対応をはじめ、中小企業者のニーズにきめ細かく応える経営支援体制の充実、創業・経営革新等への重点化を図っております。
 地方財政については、財政の更なる透明化を図る等の観点から、従来の方式に替え、平成十三年度から三年間新たに特例地方債を発行する等の制度改正を、地方財政対策において行うことといたしました。地方公共団体におかれましても、歳出全般にわたる見直し、合理化・効率化に積極的に取り組まれるよう要請するものであります。

 

(結び)
 
以上、平成十三年度予算の大要について御説明いたしました。
 国民の皆様の御理解と御協力を頂き、自律的な景気回復の実現に向けて経済運営を行いつつ、新たな時代を迎えた我が国の経済・財政の諸課題に対処していく所存であります。
 関係法律案とともに御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。