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第百四十五回国会における宮澤大蔵大臣の財政演説

 

平成十一年一月十九日

 

  平成十一年度予算の御審議に当たり、今後の財政金融政策の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、予算の大要を御説明いたします。

(最近の経済情勢と当面の経済運営の基本方針)

  我が国は、戦後五十年余の間に様々な試練に直面しましたが、国民のたゆまぬ努力と創意により、その度にこれを乗り越え、今日の日本を築き上げてまいりました。

  しかし、今日の我が国経済は、資産市場の低迷や不良債権問題の深刻化などバブルの後遺症を抱える中、金融機関に対する信頼の低下、雇用不安などが重なり、極めて厳しい低迷状況にあります。また、我が国を取り巻く国際経済情勢も、一昨年アジア諸国に端を発した通貨・経済の不安定な状況により、先行きは極めて不透明であります。

  こうした内外の諸情勢の下、今我が国がなすべきことは、国民の叡智を結集して、不況を早急に克服し、二十一世紀に向かって豊かで活力ある社会を再構築するとともに、対外的には、世界経済の発展のために我が国に期待されている役割を果たしていくことであると考えております。

  今後の財政金融政策の運営に当たっては、このような認識の下に、以下に申し述べる諸課題に全力を挙げて取り組んでまいります。

(我が国経済の再生)
  まず、財政面から最大限の措置を講じて不況克服に全力で取り組みます。
  このため、昨年秋とりまとめました緊急経済対策に盛り込まれた諸施策を着実に実施すべく、先般成立した平成十年度第三次補正予算を迅速に執行してまいります。

  さらに、平成十一年度予算については、例えば、公共事業について公共事業等予備費を含め予算ベース・支出ベースともに前年度に比べ十パーセントを上回る伸びを確保するなど景気回復を最優先課題とした財政運営を行うことといたします。

  同時に、景気の回復基盤を固めるためには金融システムを早急に再構築することが不可欠であります。このため、昨年秋に制定された金融機能再生法及び金融機能早期健全化法を活用するとともに、中小・中堅企業等の資金需要に的確に応えうるよう、政府系金融機関の資金量を十分に確保し、また、信用保証制度を強化して、信用収縮や貸し渋りの防止に努めてまいります。
  さらに、税制については、現下の厳しい経済情勢等を踏まえ、平成十一年度改正において、恒久的な減税をはじめ、国・地方を合わせ、平年度九兆円を超える減税を実施することとしております。

  まず、所得税については、最高税率の引下げを行うとともに、定率減税を実施するほか、扶養控除額の加算を行うことといたします。法人税については、我が国企業が国際社会の中で十分競争力を発揮できるよう、基本税率の引下げを行うとともに、中小法人等に対する軽減税率についても引下げを行うこととしております。

  また、景気回復に資するため、住宅ローン減税を実施するほか、情報通信機器の即時償却制度の創設等の措置を講じてまいります。

  さらに、有価証券取引税及び取引所税を廃止し、経済・金融情勢等の変化に対応して、適切な措置を講ずることとしております。

 なお、今回の所得税及び法人税の減税は、この際早急に実施すべき負担軽減措置を講ずるものでありますが、今後の我が国の経済社会の構造的な変化、国際化の進展等に対応した個人及び法人の所得課税の抜本的な改革については、引き続き検討してまいります。

  このように財政・税制面で景気回復に全力を尽くすこととした結果として、平成十一年度予算における公債依存度は、前年度当初予算の二十・〇パーセントと比べ十七・九ポイント増加し、三十七・九パーセントとなります。平成十一年度末の公債残高は三百二十七兆円に達する見込みであり、財政状況の急速な悪化は避けられません。我が国の将来の世代・社会の変化を考えますと、財政構造改革は必ず実現しなければなりませんが、これについては、我が国経済が回復軌道に乗った段階において、改めて二十一世紀の初頭における財政・税制の課題として、根本的な視点から必要な措置をとらなければならないと考えております。
(世界経済発展への貢献)
  他方、経済の国際化が進む中、我が国は世界経済の健全な発展への貢献にも取り組まなければなりません。
  一昨年のアジア通貨危機に際しては、我が国はIMF、世界銀行、アジア開発銀行及び関係各国とも協調しつつ、二国間支援としては関係各国中最大の支援を表明し、それを着実に実施してまいりました。

 また、アジア諸国の経済困難の克服を支援し、国際金融資本市場の安定化を図るため、昨年十月には三百億ドル規模の資金支援を含む「アジア通貨危機支援に関する新構想」を表明し、既に大部分の国について支援の具体策を決定するなど、その実施に努めているところであります。

 我が国としては、今後とも、関係各国及び国際機関とも密接に連携しながらアジア支援を行っていく所存であります。

  国際金融システムについては、アジア通貨危機以降、短期的あるいは投機的な資金の激しい移動が、特に新興市場諸国に対して、混乱や大きなリスクをもたらすおそれがあるということが、国際的な理解になりつつあります。

  私は、現在の国際金融システムには、1短期資本移動のもたらすリスクとそれへの対応、2危機に陥った国への流動性供給の在り方、3適切な為替相場制度とはどのようなものか、という三つの根本的な問題があり、これらにいかに対応していくかが重要であると考えます。

  今後とも、G7や主要な新興市場諸国等とともに国際金融システムの改革の実現に向けた議論や検討に積極的に取り組んでいきたいと考えております。

  また、多角的自由貿易体制の維持・強化及び貿易円滑化については、我が国は、WTO、APEC等を通じ、積極的に取り組んでおり、平成十一年度関税改正においても、特定品目の関税率の引下げ等、所要の改正を行うこととしております。
  本年一月、欧州において新しい通貨「ユーロ」が誕生しました。ユーロの誕生により欧州地域経済は更に活性化するものと期待され、また、ユーロは国際通貨システムの中で重要な地位を占めるものと思われます。

  我が国としても、ユーロの誕生やアジア通貨危機といった内外の経済・金融情勢の変化を踏まえ、我が国通貨「円」の国際化を進めていくための環境整備を図っていくことが極めて重要な課題であると考えております。

  先般、海外の投資家が我が国の国債に投資しやすくなるよう、政府短期証券(FB)を公募入札により発行することとし、国債利子について非居住者を非課税とする制度を創設するなど、円の国際化推進のための具体的な方策をとりまとめたところでありますが、今後とも、円の国際的な使用を一層推進するため幅広い分野で努力していきたいと考えております。

(平成十一年度予算の大要)

 次に、今国会に提出しております平成十一年度予算の大要について御説明いたします。

 

  平成十一年度予算は、平成十年度第三次補正予算と一体的にとらえ、年度末から年度始めにかけて切れ目なく施策を実施すべく、いわゆる十五か月予算の考え方の下、当面の景気回復に向け全力を尽くすとの観点に立って編成しております。

  歳出面については、一般歳出の規模は四十六兆八千八百七十八億円となり、前年度当初予算に対して五・三パーセントの増加となっております。

  国家公務員の定員については、増員は厳に抑制し、三千五百六十四人に上る行政機関職員の定員の縮減を図っております。補助金等についても、地方行政の自主性の尊重、財政資金の効率的使用の観点から、その整理合理化を積極的に推進しております。

  また、現下の金融情勢にかんがみ、預金保険機構に交付した国債の現金化に充てる財源として二兆五千億円を国債整理基金特別会計に繰り入れることとしております。

  なお、平成九年度の決算上の不足に係る決算調整資金を通じた国債整理基金からの繰入れ相当額一兆六千百七十四億円については、法律の規定に従い、同基金に繰り戻すこととしております。

  これらの結果、一般会計予算規模は八十一兆八千六百一億円、前年度当初予算に対して五・四パーセントの増加となっております。

 

  歳入の基幹たる税制については、先に申し述べましたとおり、所得税及び法人税について恒久的な減税を実施するとともに、住宅建設及び民間設備投資の促進、経済・金融情勢の変化への対応等の観点から適切な措置を講ずることとしております。

 

  以上の措置を受け、公債発行予定額は、前年度当初予算より十五兆四千九百三十億円増額し、三十一兆五百億円となります。特例公債の発行については、別途「平成十一年度における公債の発行の特例に関する法律案」を提出し、御審議をお願いすることとしております。

  なお、消費税の福祉目的化については、消費税収の使途を基礎年金、老人医療及び介護に限ることとし、その旨を予算総則に明記いたしました。これにより、消費税に対する国民の皆様の理解を一層深めていただけるものと考えております。 

  財政投融資計画については、景気回復に十分配慮して財政投融資資金の活用を図るとともに、特殊法人の整理合理化への対応等、改革に向けた努力を継続することとしたところであり、一般財政投融資の規模は三十九兆三千四百九十二億円となり、前年度当初計画に対して七・三パーセントの増加となっております。また、資金運用事業を加えた財政投融資計画の総額は五十二兆八千九百九十二億円となり、前年度当初計画に対して五・九パーセントの増加となっております。
  次に、主要な経費について申し述べます。

  社会保障関係費については、急速な人口の高齢化に伴いその増大が見込まれる中、経済の発展・社会の活力を損なわないよう、制度の効率化・合理化を進め、将来にわたり安定的に運営できる社会保障制度の構築を図ってまいります。

  文教及び科学振興費については、創造的で活力に富んだ国家を目指して、教育環境の整備、高等教育・学術研究の充実、創造的・基礎的研究に重点を置いた科学技術の振興等の施策の推進に努めております。

  公共事業については、当面の景気回復に向け全力を尽くすとの観点に立って、公共事業関係費を前年度当初予算に対して五・〇パーセント増額するとともに、別途、公共事業等予備費五千億円を計上することといたしました。また、公共事業関係費の配分に当たっては、物流効率化による経済構造改革に資する分野、二十一世紀を展望した経済発展基盤となる分野、生活関連社会資本への重点化を図っております。さらに、その実施に当たっては、再評価システムの導入などを通じて公共事業の効率化・透明化に努めることとしております。

  中小企業対策費については、厳しい経営環境に配慮し、金融対策、新規開業・雇用創出支援等に重点を置いて、施策の充実を図っております。

  農林水産関係予算については、今後の農業の担い手となるべき者へ各種施策を集中させるとともに、農産物価格政策における市場原理の一層の導入を図りつつ、所要の施策の着実な推進に努めております。

  経済協力費については、アジア支援に関する我が国への期待の増大等に対応しつつ、援助の効率化・重点化を一層進めております。

  防衛関係費については、一昨年末に見直された中期防衛力整備計画の下、効率的で節度ある防衛力整備を行うこととし、防衛装備品の調達価格の引下げ等経費の一層の効率化・合理化等を図っております。

  エネルギー対策費については、地球温暖化問題への対応の重要性等も踏まえ、総合的なエネルギー対策の着実な推進に努めております。

  地方財政については、国の財政とともに、巨額の財源不足が見込まれるところであり、こうした状況を踏まえ、国と地方のたばこ税の税率変更による地方のたばこ税の増収措置、法人税の交付税率の上乗せ、地方特例交付金(仮称)の創設などにより恒久的な減税の影響を補てんするとともに、所要の地方交付税総額を確保するなど、地方財政の運営に支障を生ずることのないよう所要の措置を講ずることとしております。地方公共団体におかれましても、歳出全般にわたる見直し、合理化・効率化に徹底的に取り組み、行財政改革をより積極的に推進するよう要請するものであります。
  以上、平成十一年度予算の大要について御説明いたしました。

  我が国経済が戦後初の4四半期連続マイナス成長という厳しい局面を迎える中で、こうした経済情勢から早急に脱却することを最優先に予算の編成をいたしました。また、そのような心構えで今後の財政金融政策を進めてまいりたいと存じます。

  何とぞ、関係法律案とともに、御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。