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第166回国会における尾身財務大臣の財政演説

平成19年1月26日

平成19年度予算及び平成18年度補正予算の御審議に当たり、今後の財政政策等の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、予算の大要を御説明いたします。

(我が国の経済の状況と課題)

我が国経済は、長期停滞のトンネルを抜け出し、民間需要に支えられた景気回復を続けています。政府としては、こうした回復の動きを持続可能なものとするため、規制改革などの構造改革を今後とも強力に推進するとともに、イノベーションによる成長力強化を図り、引き続き、物価安定の下での民間需要中心の持続的な成長を図ってまいります。

目を外に転じますと、経済がグローバル化する中で、経済の活性化を図っていくためには、アジアを中心とする世界の成長と活力を取り込んでいくことが必要であり、アジアを含めた世界経済に貢献し、互いに発展していく関係を築いていくことが求められます。このため、G7、アジア諸国、国際機関等と協力を進めていくとともに、多角的自由貿易体制の強化及び経済連携協定の積極的な推進や平成19年度関税改正における通関制度の改善、租税条約の改定等を行い、我が国の経済社会をオープンなものにしてまいります。

(平成19年度予算及び税制改正の大要)

平成19年度予算編成に当たっては、財政の健全化を更に進めるとの考え方の下、徹底した歳出の削減・見直しに取り組み、一般会計全体の予算規模を82兆9,088億円といたしました。

歳入面では、租税等の収入は53兆4,670億円を見込み、その他収入は4兆98億円を見込んでおります。

歳出面では、一般歳出について、徹底した歳出削減方針を貫き、多くの経費を平成18年度当初予算より減額する中で、国民や地域に対して温かみのある取組みに配慮したメリハリのある予算配分を行っております。その結果、税収について、平成18年度当初予算に比べ、7兆5,890億円の増加を見込む一方で、一般歳出は46兆9,784億円にとどめております。これは、平成18年度当初予算より6,124億円の増加となっておりますが、電源開発特別会計の仕組みの変更に伴う3,179億円の歳出増加を除けば、2,945億円の増加にとどまっております。

地方交付税交付金等については、税収増により法定率分が大幅に増加する中で、地方歳出の見直し等により、可能な限り抑制し、平成18年度当初予算に比べ、3,732億円増加の14兆9,316億円にとどめております。併せて、交付税特別会計における国負担分の借入金18兆6,648億円を一般会計に承継し、その償還を開始することといたしました。

この債務償還費の増加1兆7,322億円を含め、国債費については、平成18年度当初予算に比べ、2兆2,372億円増加の20兆9,988億円としております。

これらの結果、新規国債発行額は、平成18年度当初予算に比べ、4兆5,410億円減の25兆4,320億円となり、過去最大の減額を実現いたしました。これに加え、先ほど申し上げた債務償還の開始により、実質的に平成18年度当初予算を上回る約6兆3,000億円の財政健全化を図りました。

また、この交付税特別会計借入金の一般会計への承継や、電源開発特別会計における仕組みの変更は、透明性の向上や財政資金の効果的な活用にも資するものであり、質的な面に留意した改革となっております。

次に主要な経費について申し述べます。

社会保障関係費については、少子化対策、医師確保対策等の推進を図る一方、社会保障制度について改革努力を継続し、歳出の抑制を図る観点から、雇用保険の国庫負担の縮減、生活保護の見直し等の取組みを行っております。

文教及び科学振興費については、教育再生を推進する施策への重点化を図る一方、義務教育費国庫負担金等の機関補助的な予算は、着実に削減に取り組み、一層のメリハリ付けを行っております。また、イノベーションを通じた経済成長の源である科学技術分野については、選択と集中の徹底を図りつつ、増額を確保しております。

防衛関係費については、弾道ミサイル防衛や米軍再編事業等に的確に対応しつつ、一層の効率化を図っております。

公共事業関係費については、全体として抑制しつつ、地域の自立・活性化、我が国の成長力強化に直結する投資等への重点化を行っております。

経済協力費については、ODA事業量の確保に配慮しつつ、コスト縮減や予算の厳選・重点化等を通じ、抑制を図っております。

中小企業対策費については、我が国経済活力の源泉である中小企業の活性化のため、メリハリを明確にしつつ、地域活性化や再チャレンジ支援につながる事業等を中心に重点化を図っております。

エネルギー対策費については、特別会計の歳出の見直しや電源開発促進税の一般会計繰入方式への変更など、特別会計改革の内容を反映させるとともに、安定供給確保や地球温暖化対策への対応等を着実に進めております。

農林水産関係予算については、農業構造の改革を推進するため、担い手への施策の集中化を図るとともに、担い手の育成・確保、地域活性化等への重点化を図っております。

治安関係予算については、治安関連職員の増員をはじめ、安全で安心して暮らせる社会の実現に向けた重点化を図っております。

国家公務員の人件費については、平成18年度を上回る2,129人の国の行政機関の定員純減を行うこととするほか、給与構造改革の進展や官民給与の比較対象企業規模の見直しを的確に予算へ反映させております。また、地方公務員の人件費についても、国の改革と同様に定員の純減や給与構造改革等の見直しを行い、地方歳出の抑制につなげております。

特別会計については、行政改革推進法で定められた、特別会計の統廃合などを実施に移すため、本国会において、特別会計に関する法律案を提出しております。

道路特定財源については、昨年12月に決定した「道路特定財源の見直しに関する具体策」に基づく見直しを行い、特定の税収が自動的に全て道路整備に充てられるという、制度創設以来、約50年にわたり変わることのなかった仕組みを改めます。また、平成19年度予算においても、改革の精神を実現すべく、納税者の理解を得つつ、一般財源の拡大を図っております。

「簡素で効率的な政府」を実現する観点から、資産・債務改革に取り組む一環として、財政投融資については、対象事業の重点化・効率化等を図り、総額の抑制に努めた結果、平成19年度財政投融資計画の規模は、対前年度5.6%減の14兆1,622億円となりました。一般庁舎・宿舎などの国有財産については、民間の知見を活用した有効活用を更に推進してまいります。

国債発行総額は143兆8,380億円と平成18年度と比べ、21兆5,971億円減少し、過去最大の減額となりました。しかし、国債残高は依然として多額に上り、引き続き、国債管理政策を財政運営と一体として適切に運営していく必要があります。このため、国債発行に当たっては、安定消化とともに、中長期的な調達コストの抑制に努めることを基本とし、市場のニーズ・動向等を踏まえた発行に取り組んでまいります。

税制については、現下の経済・財政状況等を踏まえ、持続的な経済社会の活性化を実現するためのあるべき税制を構築してまいります。

企業が国を選ぶ時代となる中で、税制も国際的なイコールフッティングを確保する必要があり、平成19年度において、我が国経済の成長基盤を整備する観点から、減価償却制度について、償却可能限度額を廃止するなど、国際的に遜色のない制度とするよう見直しを行います。また、中小企業について、その資本蓄積を促進するため、留保金課税制度の適用対象から除外することや、税源移譲後も中低所得者の減税額を確保するため住宅ローン減税の特例を創設するなど、国民生活等に配慮した中小企業関係税制や住宅・土地税制等の改正を行います。

(平成18年度補正予算の大要)

次に、平成18年度補正予算について申し述べます。

歳入面では、租税等の収入について、平成18年度当初予算に比べ、4兆5,900億円の増加を見込んでおります。この一方で、歳出面において、国民の安全・安心を確保する観点から災害対策に対応するなど、必要性・緊急性の高い経費を計上するとともに、増加した租税等の収入は、できる限り財政健全化に充てることとしております。この結果、国債の発行予定額を2兆5,030億円減額するとともに、平成17年度決算上の財政法第6条剰余金の全額9,009億円を、国債の償還に充てることとしております。

このほか所要の補正を行い、平成18年度補正後予算の総額は、当初予算に対し歳出・歳入ともに3兆7,723億円増加し、83兆4,583億円となっております。

また、特別会計予算及び政府関係機関予算についても所要の補正を行っております。

(我が国財政の現状と財政運営の基本的な考え方)

次に、我が国財政の現状と財政運営の基本的な考え方について申し述べます。

平成19年度予算では、平成16年度に44.6%であった公債依存度が、3年連続で改善して30.7%となり、一般会計のプライマリーバランスは、平成15年度には約19兆6,000億円の赤字であったものが、4年連続で改善して約4兆4,000億円の赤字にとどまるなど、財政健全化に向けて確実な一歩を踏み出しました。

しかし、我が国の財政状況を見れば、決して楽観視できるような状態ではありません。国・地方を合わせた長期債務残高は、平成19年度末で773兆円、対GDP比で148%になると見込まれ、主要先進国の中で最高の水準にあります。なお、他の国を見ると、次に高いのがイタリアの121%、その他のヨーロッパ諸国や米国は50%から70%程度であります。他方、国民負担の指標として、所得の中で、租税及び医療保険等の保険料の支払いの比率を表す我が国の国民負担率は、平成19年度において39.7%であり、主要先進国の中で実質的に最低水準であります。同様に他の国を見れば、国民皆保険制度を採っていない米国の32%を例外として、ヨーロッパ諸国は50%から60%程度となっております。ちなみに、高福祉の国として知られているスウェーデンは70%となっております。端的に申し上げれば、我が国財政の状況は、債務残高が主要先進国の中で最悪の水準である反面、国民の負担を表す国民負担率は、最低の水準ということであります。このような財政の姿について、財政制度等審議会は、「中福祉・低負担」とも言うべき状態、と指摘しております。

こうした状況を踏まえれば、子供や孫の世代に負担を先送りしないためにも、財政健全化に向けた取組みを着実に進めていかなければなりません。したがって、2010年代半ばに向け、債務残高対GDP比を安定的に引き下げることを目指し、まずは、2011年度までにプライマリーバランスを確実に黒字化することを目標に、歳出・歳入一体改革に取り組んでまいります。

しかしながら、歳出・歳入一体改革の取組みを進めるに当たり、非効率な歳出を放置したまま、負担増を求めることになれば、国民の理解を得ることは困難であり、国民負担の最小化を目標に、歳出削減を引き続き徹底していく必要があります。それとともに、今後とも増加する社会保障給付や少子化への対応等について、国民が広く公平に負担を分かち合う観点に留意しつつ、基礎年金国庫負担割合の引上げのための財源を含め、安定的な財源を確保するため、抜本的・一体的な税制改革を推進いたします。

こうした考え方の下、先に述べました通り、平成19年度予算では徹底した歳出削減を行ったところでありますが、さらに7月頃に判明する平成18年度決算の状況や医療制度改革を受けた社会保障給付の実績等を踏まえ、本年秋以降、税制改革の本格的・具体的な議論を行い、平成19年度を目途に、消費税を含む税体系の抜本的改革を実現させるべく、取り組んでまいります。

(むすび)

国を支える税金を国民が負担することは、民主主義国家の根幹であります。米国では、パトリック・ヘンリーらが唱えた「代表なければ課税なし」とのスローガンの下、独立戦争が戦われました。これは言い換えれば、「代表あれば課税あり」ということであります。国の財政を支える税金は、「取られるもの」ではなく、自分達の代表の決定に従い、必要な国の支出を支えるため、「自ら納めるべきもの」である、という自覚を持っていただくことが重要であると考えております。

財政の問題は、ひとり政府だけの問題ではありません。この問題は、国民一人ひとりが自らの問題として考えていただくことが大切であります。

財政再建の道のりはまだまだ遠く、引き続きたゆまぬ努力が必要であります。私達が、子供や孫の世代に負担を先送りすることは許されません。安倍政権の掲げる「成長なくして財政再建なし」との理念の下、経済活性化と財政健全化を両立させることを目指し、この日本が、将来に明るい展望の開ける、活力に満ちた社会となるよう、全力を尽くします。

以上、平成19年度予算及び平成18年度補正予算の大要等と、今後の財政運営の基本的考え方について御説明いたしました。関係法律案とともに御審議の上、速やかに御賛同いただくとともに、今後の財政運営について、国民並びに議員各位の御理解と御協力を切にお願い申し上げます。