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第154回国会における塩川財務大臣の財政演説

平成十四年二月四日
  

 

 平成十四年度予算の御審議に当たり、今後の財政政策等の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、予算の大要を御説明いたします。
 

(はじめに)

 

 我が国経済は、バブル経済崩壊後、長期にわたる低迷を続けておりますが、この背景には、不良債権問題のほか、内外の構造変化が急速に進む中で、経済社会の様々なシステムがうまく機能しなくなっていることがあると考えます。このような状況の中、日本経済を活性化させ、我が国の持つ潜在力を発揮できる経済社会の枠組作りが求められております。
 こうした認識の下、私は、以下に申し述べる諸課題に着実かつ的確に取り組み、改革の実を上げてまいる所存であります。
 

(財政構造改革等)

 

 第一の課題は、各般の構造改革の一環として財政構造改革に取り組むことであります。

 我が国経済の再生のためには、個人や企業自らがその持てる力を存分に発揮することが不可欠であり、政府の役割としては、そのための環境を整えることが重要です。
 財政構造改革は、歳出歳入両面にわたる不断の見直しを通じて、政府が真に必要な公共サービスを効率的かつ安定的に提供できるようにするとともに、民間の活力を引き出すことが本来の目的であると考えます。

 こうした考え方に立ち、平成十四年度予算編成に当たっては、「国債発行額三十兆円以下」との目標を掲げ、「五兆円を削減しつつ重点分野に二兆円を再配分する」との方針の下、歳出の一層の効率化を進める一方、予算配分を少子高齢化への対応、科学技術・教育・ITの推進等の重点分野に大胆にシフトいたしました。また、特殊法人等への財政支出については、事務事業の抜本的見直しの結果等を反映し、一般会計・特別会計合わせて、一兆一千億円を超える削減を実現しております。

 なお、経済情勢に対応し、平成十三年度第一次補正予算においては雇用対策等に重点を置き、第二次補正予算においては経済効果の高い施策を緊急実施するべく、編成したところであります。政府としては、これらの速やかな執行に努めるとともに、平成十四年度予算とあわせ切れ目なく対処していく所存であります。

 我が国の財政事情は、平成十四年度末の国・地方の長期債務残高が六百九十三兆円に達する見込みであるなど、G7諸国の中で最悪の状況にあります。今後の財政運営に当たっては、先般閣議決定された「構造改革と経済財政の中期展望」を踏まえ、歳出の質の改善や抑制等を推進するとともに、受益と負担の関係についても引き続き検討を行いつつ、プライマリーバランスの回復に向けて努力してまいります。
 

(あるべき税制の構築)

 

 第二の課題は、抜本的な税制改革に取り組むことであります。

 平成十四年度税制改正においては、連結納税制度を創設するとともに、中小企業関係税制として、同族会社の留保金課税の軽減及び取引相場のない株式等について相続税の軽減措置等を講じることとしております。
 また、老人等の少額貯蓄非課税制度を障害者等を対象とした制度に改組するほか、租税特別措置を大幅に見直すとともに、沖縄の経済振興等のための税制上の措置等を講じることとしております。

 税制の改革は、これからの経済再生にとって国民の活力を如何に引き出すかという観点からも、政府が取り組んでいる構造改革の柱の一つとして極めて重要な意義を有するものであると考えます。
 ここ数年にわたり、恒久的減税の実施など、税制においても景気に最大限配慮をしてきました。その結果、我が国の租税負担率はG7諸国で最低の水準となっております。また、働いている人のうち四分の一が所得税を負担しておらず、二百五十万法人のうち三分の二が法人税を負担していません。租税は公的サービスを皆で広く公平に支えていくための会費であることに思いをいたせば、全体としての租税負担のあり方、また、いわゆる「税負担の空洞化」ともいうべき状況について議論することが必要です。
 また、個人や企業の経済活動が多様化する中で、経済の活力を高めていくためには、個人や企業の自由な選択を妨げず、これを最大限尊重することが重要です。二十一世紀においては、経済活動に中立で歪みのない、簡素でわかりやすい税制の構築が求められるとともに、少子高齢化、グローバル化、情報化などの構造変化にも的確に対応した税制の改革が必要となっています。

 今後、政府税制調査会において、経済財政諮問会議等と連携しつつ、あるべき税制の構築に向けて、広く税制上の課題について取り組んでいただき、六月頃を目途に基本的な方針を示していただきたいと考えております。併せて、幅広い国民的な議論を期待します。
その後、この基本的な方針を踏まえ、まずは当面対応すべき課題について年内にとりまとめ、平成十五年度以降、実現してまいりたいと考えております。
 

(世界経済の安定と発展への貢献)

 

 第三の課題は、世界経済の安定と発展に貢献することであります。

 経済のグローバル化が進む中で、自由で公正な国際経済社会の実現に向けて各国が協力して取り組んでいくことが重要であり、我が国としても、G7財務大臣・中央銀行総裁会議等において、世界経済の安定と発展に向けて政策協調を進めてまいります。加えて、地域協力の動きが更に進展しつつあることを踏まえ、アジアにおける通貨・金融の安定に向け一層の貢献を行ってまいります。

 また、多角的貿易体制の維持・強化のため、WTO第四回閣僚会議において立上げが合意された新たな多角的貿易交渉に、我が国としても積極的に取り組んでまいります。併せて、これを補完し、世界の貿易自由化を促進するとの観点から、二国間の自由貿易協定にも取り組んでおり、先般、日本・シンガポール新時代経済連携協定の締結に至りました。
 平成十四年度関税改正においては、同協定締結に伴う所要の改正や塩の輸入自由化に伴う関税措置の導入等を行うこととしております。

 なお、昨年九月の同時多発テロ事件を受け、テロ資金対策のための国際的な取組が進められております。我が国としても、テロ対策の一環として、外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律案を今国会に提出することとしております。
 

(平成十四年度予算の大要)

 

 次に、今国会に提出しております平成十四年度予算の大要について御説明いたします。

 まず、歳出面については、一般歳出の規模は四十七兆五千四百七十二億円となり、前年度当初予算に対し二・三パーセントの減少となっております。
 国家公務員の定員については、九千二百七十一人に上る行政機関職員の定員の縮減を図っております。補助金等についても、その整理合理化を積極的に推進しております。
 一般会計全体の予算規模は八十一兆二千三百億円、前年度当初予算に対し一・七パーセントの減少となっております。

 次に、歳入面について申し述べます。
 租税等については、先に申し述べました税制改正を織り込み四十六兆八千百六十億円を見込んでおります。また、その他収入については、外国為替資金特別会計からの繰入れの増額等により、四兆四千百四十億円を見込んでおります。
 公債発行予定額は、前年度当初予算より一兆六千八百二十億円増額し、三十兆円となっております。特例公債の発行等については、別途所要の法律案を提出し、御審議をお願いすることとしております。

 財政投融資計画については、財政投融資改革、行財政改革の趣旨を踏まえ、全体規模を縮減しつつ、対象事業の重点化を図るとともに、現下の社会経済情勢に鑑み真に必要と考えられる資金需要には的確に対応することとしております。その規模は二十六兆七千九百二十億円となり、前年度当初計画に対し十七・七パーセントの減少となっております。

 次に、主要な経費について申し述べます。
 社会保障関係費については、将来にわたり持続可能で安定的・効率的な社会保障制度を構築する観点から、医療制度改革等を行うとともに、少子高齢化や厳しい雇用情勢等に対応するための施策を推進することとしております。
 公共投資関係費については、その水準を全体として縮減しつつ、循環型経済社会の構築など環境問題への対応、都市の再生等、「平成十四年度予算編成の基本方針」に掲げられた七分野への重点化を行っております。
 文教及び科学振興費については、創造力と活力に富んだ国家を目指して、確かな学力の育成等教育改革の推進のための環境整備、高等教育・学術研究の充実、競争的資金の拡充等による科学技術の振興等に努めております。
 防衛関係費については、各種事態への対応等中期防衛力整備計画に掲げられた重要課題に応えつつ、効率的で節度ある防衛力整備を行うこととしております。
 農林水産関係予算については、農業構造の改革を推進するため、意欲と能力のある経営体への施策の集中に努めるとともに、林野・水産分野における新たな基本法を踏まえた施策の展開等を図っております。
 経済協力費については、全体の量的規模を縮減しつつ、アフガニスタン及び周辺国支援への対応等、援助対象分野等の重点化を図っております。
 エネルギー対策費については、地球温暖化問題への対応等総合的なエネルギー対策を着実に進めております。
 中小企業対策費については、創業・経営革新の推進や中小企業に対する円滑な資金供給を確保するための基盤強化等への重点化を図っております。

 地方財政については、国の歳出の見直しと歩調を合わせつつ、地方の歳出の見直しを行うとともに、財政の更なる透明化を推進する観点から、交付税及び譲与税配付金特別会計における借入金を縮減しつつ、所要の地方交付税総額を確保するなど、地方財政の運営に支障を生じることのないよう適切な措置を講じることとしております。地方公共団体におかれましても、歳出全般にわたる一層の見直し、合理化・効率化に積極的に取り組まれるよう要請するものであります。
 

(結び)

 

 以上、平成十四年度予算の大要について御説明しました。本予算は、財政の節度を維持しつつ、歳出の一層の効率化を進めるとともに、将来の発展の芽となる分野には予算を大胆に配分するものであり、持続可能な財政への転換の第一歩であります。
 何とぞ、関係法律案とともに御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。