ファイナンス 2018年1月号 Vol.53 No.10
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職員トップセミナーや関税計算の基礎となる物品価格の評価方法など、他の税関手続も統一化する必要があります。また、税関手続の調和というのは、欧州だけではなく世界各国共通の課題ですので、1952年に全ての国に開かれた形で税関専門の国際機関がブリュッセルに設立されました。今日ではWCOは182カ国がメンバーになっていますが、策定された税関標準は事実上全ての国で使われています。(2)変化する税関の役割税関の役割は時代と共に変化してきております。もともと税関は関税を徴収する組織なので、水際でモノの流れを見ていますから、社会の安全、あるいは国民の健康にリスクのある貿易を取り締まる役割も重要になりました。他方、経済発展の基礎となる貿易円滑化も課題で、貿易上の関税率はどんどん下がってきていますから、貿易手続の方が今や関税率よりコストがかかりかねない状況になっています。このため税関手続きの簡素化、調和化が一層求められるようになってきています。(3)WCOのミッション次に、WCOは具体的に何を行っているのかをお話しいたします。(ア)税関手続のスタンダード化まず、一つ目に税関手続の標準化があります。WCOには様々な委員会があり、関税の徴収手続き、水際のセキュリティ強化や社会悪取締り、更には貿易円滑化といった多様な分野について、毎週のように議論を行いスタンダードやガイドラインの策定、改善を行っています。(イ)各国間の協力を支援次に、円滑な税関実務のためには、各国の税関同士の情報交換やベストプラクティスの交換が重要ですので、そうした国際協力推進のため、電子プラットフォームやフォーラム組織を支援しております。(ウ)キャパシティビルディング最後は税関の組織的な能力向上(Capacity Building)です。もともと私どもの組織というのは、税関手続のスタンダードを策定する任務が中心でしたが、途上国の加盟が増えると、WCOのスタンダード実施のための技術支援が必要になってきました。これは何がきっかけだったかといいますと、2001年9月11日、御承知のようにニューヨークにある世界貿易センタービルに飛行機が突っ込むという大規模テロが発生しました。このとき、米国は海上コンテナに爆薬が隠されていて、米国の港に着岸し、それが爆発したらどうなるのか、特にそれが核爆弾だった場合を危惧して、貿易上のサプライチェーンの安全確保の重要性を訴えました。こうした背景から累次の議論を経て、2005年、WCOは貿易上のサプライチェーンの安全確保と貿易円滑化を推進するためのスタンダードである“SAFE「基準の枠組み」”を策定しました。その際、途上国はこのような先進的なスタンダードを実施するのは難しいと訴えたので、その対応としてキャパシティビルディング局という組織をWCOの中に設置して、税関の組織的能力向上のための支援を制度化しました。(4)戦略プランと目標の明確化(ア)WCO戦略プランの策定こうしてWCOの活動が広がると、これを整理して分かりやすい形で示す必要があるので戦略プランを策定することとしました。内容的には、税関の3つの役割である、貿易円滑化、歳入・徴収、社会悪やテロから社会を守る活動に対応した3本柱に、4本目の柱としてキャパシティビルディングの実施を加え、WCOの4つの戦略ゴールという形で2012年に整備いたしました。これはその後も改定を続け、最近では5番目の戦略ゴールとして、デジタル技術革新への対応及び情報交換を加えております。ファイナンス 2018.142連 載|セミナー

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