ファイナンス 2018年1月号 Vol.53 No.10
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職員トップセミナーーンダウンしたものにはなったのですけれども、例えば原油にも言及がされるようなものだったわけです。ここら辺でかなりアメリカの反応が厳しくなっているというような状況もあってか、中国はまた少しアメリカ寄りで北朝鮮に対する圧力を強め始めているのかなと思います。それが象徴的なのが、6月の後半ぐらいに行われた米中の安全保障と外交のツー・プラス・ツーの前まで、トランプ大統領は、中国はよくやっている、中国はすばらしい、ということを言っていたにもかかわらず、ツー・プラス・ツーぐらいから、中国は何もやってないと。あいつらがやっているのは経済で自分たちが儲けることで、北朝鮮には何もやってないみたいな不満が出てくる。これはアメリカ、とりわけトランプ大統領から見たときの中国の動きがそういうふうに見えたということなのだろうと思います。そういう意味で、アメリカについての認識というのが、北朝鮮あるいは中国で少し揺れ動いていて、その結果今は少し慎重な状況にあるのかなと。さらにはその水面下で、恐らく米朝の協議が行われているのだろうと思われます。北朝鮮の沈黙が続いている理由としては、いくつか考えられるのですが、一つは次にやりたいことというのは、通常の発射角度に近い形でのICBM発射訓練とか、いわゆる核弾頭の再突入技術の向上、核実験の継続といった非常にアメリカを刺激するものです。ですから、非常に慎重になっているのだろうと思います。トランプ大統領の「ロケットマン」発言に対する金正恩委員長の声明の中で「史上最強の超強硬対応措置の断行を慎重に(原文は深重)検討する」という文言がありましたが、「慎重(深重)」というひと言が入っているところからもそれが伺えるのかなというふうに思います。恐らく接触はいろいろなところであるでしょうから、そうしたものを見ながら次のタイミングを見計らっているというのが北朝鮮の今の状況かと思います。3.北朝鮮はなぜ核ミサイルに固執するのか(1)未完の冷戦終結次に、そもそも論として、なぜ北朝鮮が核ミサイルにこれだけ固執するのか、というところからお話をしていかなければいけないと思うのですが、これは端的に言うと、朝鮮半島における冷戦構造の解体過程が未完のままというか、うまくいかなかったことに起因します。朝鮮半島の対立構造というのは御案内のとおり、韓国と北朝鮮の分断国家ですから、この民族間の対立と、これに覆いかぶさるように東西冷戦が重なっている、こういう二重構造が朝鮮半島の対立構造の特徴です。冷戦を終結させるために何をしなければいけないかというと、南北が和解をして、そしてその冷戦体制が融解するためには韓国の後ろ盾となっている同盟国であるアメリカ、それから友好国である日本、これらの国が北朝鮮と国交を正常化し、北朝鮮の後ろ盾になっている中国・ソ連が韓国と国交を正常化するということだったわけです。(2)ソ韓、中韓の正常化ところが、ソ連と韓国は1990年に、中国と韓国は92年に正常化をするわけですが、アメリカ・日本と北朝鮮は国交正常化できていないわけです。北朝鮮が孤立をしてしまった。当時、まずソ連が韓国と国交を正常化した後に、どうやら中国と北朝鮮の間には密約があって、中国は北朝鮮がアメリカか日本と国交を正常化するか、あるいは国交正常化がもう時間の問題というふうになるまでは、中国は韓国と国交を正常化しないと約束していたようなのですが、中国は天安門事件での孤立であるとか、それから当時の台湾の李登輝総統の弾力外交といって、中国と国交を持っているアフリカの国にアプローチして、中国と断交させて台湾にオセロゲームをひっくり返すような事例が幾つか出てきた。そこで中国は、台湾に対して一番ダメージになることは何かと考えたときに、東アジアで台湾とともに反共の砦と言われた韓国との関係を正常化ファイナンス 2018.134連 載|セミナー

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