ファイナンス 2018年1月号 Vol.53 No.10
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B国の暫定議会が財務大臣に対し署名権限を付与したことを受け、できるだけ早い時期に署名式を開催すべく、議長国を中心に各国の動きが活発化します。協定の署名式を10日間で準備する(2014年9月)B国の暫定議会の承認により、署名式を一番早い時期に開催できるのは、いつどの会議の機会においてか、が次の課題となります。先月号で述べた通り、各大臣の署名により設立協定の文言が確定します。設立協定は内容的に充実したものとなっており、なるべく早く条文を動かせない段階まで手続きを進めておきたい、というのが本音でした。候補としては以下がありました。各国の財務大臣は予算や国会審議で忙しいため、これ以外の機会に特別に集まるというのは考慮されていませんでした。(1)2014年10月のIMF・世銀総会(米国・ワシントンDC〈以下ワシントン〉)(2)2014年11月のAPEC財務大臣会議(中国・北京)(3)2015年5月のASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議(アゼルバイジャン・バクー)自分が各国に不正確な情報を流して混乱を引き起こしているのも気がかりでした。先月号で述べた通りB国暫定憲法の「議会提出から60日で成立」に気を取られる余り、(9月初め提出なら)その年(2014年)の11月のAPECでの署名式すらありうるから早めの準備をお願いします、と説明を始めていました。各国は2年後の署名式を想定していたためです。B国で提出即日採決、承認だったため、更に40日以上早い10月の総会時も可能な事態となりました。9月末に各国の課長レベルの会議があり、その場でこの問題が急遽議論されました(自分は出席しておらず、以下は伝聞です)。殆どの加盟国の事務レベルの出席者が直ちに(1)の選択肢を希望しました。課長レベルの会議からワシントンまで丁度10日間、各国はその間にワシントンへ財務大臣が出張しない国の場合、代理として出張する者に署名権限を授権する必要(閣議決定など)があります。その年の共同議長(ミャンマーと日本)から初日の議事取りまとめの際、本当に準備が間に合うのか13か国の本国政府の意向をその晩のうちに確認するように指示がありました。翌朝殆どの国が対応可能、是非署名式を挙行すべき、との回答だったとのことです。国際機関化へ向けての13か国の大きな熱意の盛り上がりが感じられました*1。署名式の会場の確保が問題となりました。C国の外務省から注意喚起があったためです。C国外務省によれば、条文の書き方からして、2014年10月10日にすべての財務大臣(または署名権限者)が物理的にワシントンにいる必要がある、即ち、ある財務大臣がワシントンへ来なかった場合、持ち回りでの追加署名は認められない(=署名式はやり直す必要がある)、との意見でした*2。財務省、中央銀行関係者が起草したため専門知識が欠如して、書き方の詰めが甘かったようです。そうは言っても、大臣の乗った飛行機の到着が遅れたり、急用で本国へ帰ったりする可能性に備えなければなりません。知恵を絞った挙句、当日の早朝から深夜まで特定の会場を確保しておいた方が安全ということになりました。うるさ型のその外務省も、10月10日に総ての大臣などがワシントンにいて署名することは求めてはいても、全員が同時に会場にいることまでは求めていない、との解釈に基づきます。国際機関を作る はなしASEAN+3マクロ経済 リサーチ・オフィス(AMRO)創設見聞録その11、国際機関設立協定の 署名式への道のり(2)(2014年秋)根本 洋一27ファイナンス 2018.1連 載|国際機関を作るはなし

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