ファイナンス 2018年1月号 Vol.53 No.10
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古くは『傷だらけの栄光』(1956年)、最近では『サウスポー』(2015年)など、ボクシング映画は数あれど、最高のボクシング映画は何かと言われたらこれを推したい。ロッキー1でも2でもなく、やはり『3』である。珠玉の人間ドラマとしてアカデミー作品賞を受賞して始まったロッキーシリーズが、いわゆる「漫画路線」に豪快に車線変更をしたのは本作からと言われるものの、おもちゃ箱を一気にひっくり返したようなワクワク感、それをここまで与えてくれるボクシング映画は、本作をおいて他にないと断言できるのである。ストーリーは、アポロ・クリードとの再戦を制し世界ヘビー級チャンピオンになったロッキーが、シカゴからきたハングリーなボクサー、クラバー・ラング(ミスターT)の挑戦を受けるも、すっかりハングリーさを失ったために2ラウンドでノされる。同時に、長年連れ添ったトレーナーのミッキーを喪う。えらく落ち込んでいたところ、かつての宿敵アポロ・クリードの協力を得て、再びハングリーさを取り戻し、今度は3ラウンドでKOし、王座を取り戻す話である。テケテケテケテケ、テケテケテケテケ。映画の冒頭、独特のイントロから始まる主題歌「Eye of the Tiger」*1。CM出演、テレビ出演で国民的英雄となっていくロッキーの栄光の日々と、シカゴのスラム街で孤独なトレーニングに打ち込むクラバーの映像が交互に流れる中でかかるこの曲に、もはや鳥肌不可避である。中盤、プロレスリング世界ヘビー級チャンピオンのサンダー・リップス(ハルク・ホーガン)とのチャリティーマッチ。これ、脚本上いるの? などという野暮なことを言う自称映画評論家がいたとしたら、そいつの文章は読むに値しない。ホーガンとスタローン。80年代を象徴する2人のカリスマが同じリングに立っている事実に、もはや評価は要らない。「The Ultimate Male(=自分)versus The Ultimate Meatball!!(たぶんロッキーのこと)」と豪快にリング上でロッキーを挑発するホーガンのセリフ。当時英語の分からなかった少年たちは「何かとんでもない気の利いた侮辱を言っているに違いない」と思ったものである。極めつけは、やはりボクシングシーン。「健闘ノ試合ニアツテハ、腕ヲ直線状ニ伸バスべカラズ」という法律がいつの間に可決され、施行されたのかと思わんばかりの、ストレートというパンチの存在を一切排除したフックフックの雨あられ。8ビットの初期ファミコンゲームですら、もう少しまともなボクシングをしていたのではないか。しかし、これが良い。余談だが、ストレートというのは腰の「回転」を前に「突き出す動き」に変換するそれなりに高度なテクニックの要るパンチである。人間が生まれながらにして根源的に持っているパンチは、回転の力をそのまま拳に乗せるフックであると筆者は信じている。ボディビルダーのように“仕上げて”きたスタローンの肉体とミスターTの褐色の肉体が、力の限り振り切る原始的なフックのしばき合い。テクニック? タクティクス? そんなものは宇宙の彼方に忘れてきました、といわんばかりの、圧倒的な説得力がある。フロイド・メイウェザーJr.*2の試合に鬱憤が溜まったボクシングファンの求める全てが、ここに詰まっていると言える。例えば税制改正にあたっても、過去の経緯や小手先のテクニックから離れ、時には虎のような目で原始的なしばき合いに身を投じなければ、取り戻せない何かがある。そんなことを感じざるを得ないところに本作の魅力があることは、もはや言うまでもない。文章:かつおブルーレイ発売中 ¥1,905+税20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン監督・脚本・主演:シルヴェスター・スタローン『ロッキー3 (原題:Rocky Ⅲ)1982年』*1)サバイバーとかいう、およそこの曲でしか聞いたことないアーチストの曲である。*2)ボクシング史上唯一、無敗(50戦無敗)のまま世界5階級制覇をしたチャンピオン。しかしディフェンス重視の消極的な「負けない」試合運びで死ぬほど人気が無い。わが愛すべき80年代映画論(第六回)ファイナンス 2018.126わが愛すべき80年代映画論連 載|わが愛すべき80年代映画論

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