ファイナンス 2018年1月号 Vol.53 No.10
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本書の著者翁百合氏については、ファイナンスの読者にあらためて紹介する必要はないかもしれない。現在、(株)日本総合研究所副理事長で、経済学をバックグランドとして様々な分野で活躍する。最近の単著には、「不安定化する国際金融システム」(NTT出版 2014年)があり、2014年7月号のファイナンスライブラリーで紹介した。今回の著作では、2013年1月から2016年7月までの3年半の規制改革会議(健康・医療ワーキンググループ座長)や2016年9月からの未来投資会議・構造改革徹底推進会合での経験を踏まえ、近年の医療改革の具体的な進展状況を紹介しつつ、今後の医療政策の在り方や課題を、エコノミストの視点から考察する。構成は、「はじめに」、「第1章 本書の検討の視点」、「第2章 医療の利用者である国民の視点に立った健康増進、医療機会の提供」、「第3章 医療の発展、医療関連産業の発展に向けて」、「第4章 医療の持続可能性確保への配慮」、「第5章 技術革新を活用した課題解決に向けて」、「第6章 残されたその他の課題」、「補章 医療制度改革はどのように進められてきたか」、「おわりに」となっている。規制改革においては、「神は細部に宿る」という名言がよく引かれる。この言葉は「ことの本質」をよく見抜いていると思う。本書でも、その点でエキサイティングなのが、第2章である。論点が端的に示される副題が示唆深い。「国民の視点からみた保険外併用療養費制度の改革」(副題:保険外診療と保険診療を併せて受けると、なぜ保険診療分まで全額負担しなければならないのか)、「安心できる地域医療供給体制の整備」(副題:病床数が西高東低であったり、急性期病院が増え続けてきたのかなぜか、看取りのために終末期の患者の病院への移動を余儀なくされるのはなぜか、遠隔医療がなかなか進まなかったのはなぜか)、「患者がメリットを実感できる医薬分業とは」(副題:院内処方より院外処方のほうが患者のコスト負担が大きくなっているのはなぜか)、「セルフメディケーションをサポートする薬局への転換」(副題:なぜ薬剤師がITを活用して一般用医薬品を販売できなかったのか、薬剤師が不在の時間に、資格を持つ登録販売者がいても薬局で第二種、第三種の薬品が買えないのはなぜか、「虚弱体質」とはどういう意味か、薬局で販売される検査薬の種類が、長年3種類しかなかったのはなぜか)、「機能性表示食品制度」(副題:トクホなどを除いて食品の健康増進効果を表示してはならなかったのはなぜか)である。なお、間に挿入される短いコラムが7つあり、本文において極めて冷静に議論を進める翁氏の率直な感想が出ていて本書の味わいを増している。例えば、「コラム5 エストニアの電子政府成功のカギ」では、エストニア政府の「徹底的な利用者視点」重視に触れ、「コラム7 規制改革の進め方」において、規制改革会議について、「通常の審議会のように委員は会議で発言するだけではなく、委員自身が規制改革事項について担当省庁と最終合意まで持っていき、最終的には与党の賛同を得なければ政府としての決定にならない。…(中略)…民間委員の努力と熱意が問われる会議である。」という。「おわりに」で、医療・介護について、持続可能性を維持するための課題が山積し、「まさに政策の総合力が問われる」とする。年の初めに、広く一読をお勧めしたい1冊である。評者渡部 晶翁 百合 著慶應義塾大学出版会株式会社 2017年9月 定価2,700円(税込)『国民視点の医療改革 ―超高齢社会に向けた技術革新と制度』ファイナンス 2018.124ファイナンスライブラリーFINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

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