ファイナンス 2018年1月号 Vol.53 No.10
27/60

演目は、『義経千本桜 鳥居前』『玩辞楼十二曲の内 恋飛脚大和往来 封印切』、『藤娘』。中国での本格的な歌舞伎の公演は、10年ぶり5度目。3日間の5回公演で、約900席の380元から80元(1元約17円、歌舞伎座で観ると、演目にもよるが今月は、22,000円から4,000円)というチケットが販売開始から4日で全公演売り切れ。これも現場を見ていないので、松竹運営のWebsite「歌舞伎美人」の解説に譲ると、幕開きは、中村 芝翫、片岡 孝太郎ほかの出演で、歌舞伎の荒事の芸を見せる『義経千本桜 鳥居前』。次に、中村 鴈治郎、中村 芝翫ほかで、上方和事の代表作の一つ、『封印切』。最後に片岡 孝太郎の『藤娘』という、歌舞伎の代表的なジャンルの名作、人気作が、豪華な配役で上演された。『鳥居前』では「待て、待て」と、留めるおかしみのある場面で、「ダン イーシャ」と中国語でせりふを言うと、客席からは歓声が上がり、また、『封印切』の鴈治郎と芝翫との丁々発止のやりとりでは、客席から笑いも起きた。『藤娘』では暗闇から一転、孝太郎の美しい藤の精が現れると、感嘆が会場に広がったという。日本でも門外漢だと、役者や芝居の背景などの説明をしてくれるイヤホンガイドがないと歌舞伎はよくわからないが、今回、中国語のイヤホンガイドを無料で配布したことが大きく功を奏したとのこと。来場者アンケートによると、回答のうち、79%が女性、年齢層は多い順に、20代54%、30代29%、40代8%、10代と60代が3%。歌舞伎を見た理由は(複数回答可)、「日本文化に興味があるから」が一番多く83%、続いて「伝統芸能に興味があるから」61%、「舞台芸術に興味があるから」55%。満足度は、4段階評価中、最も高い「とても満足」が95%、次の「まあまあ満足」は5%で、やや不満、とても不満ともにゼロという結果。また、「もっと日本の伝統文化を理解して日中友好をさらに促進したいと思った。」、「とても貴重な機会だった。中日国交正常化45周年の機会を得てこのような高い水準の歌舞伎公演を鑑賞できるとは!」といった内容多数など、大変な好反応を示すアンケート結果。その後も、在中国日本国大使館による中国版ツイッター(ウェイボー)のフォロワーから、好評のコメントが多数寄せられたという。訪日時に歌舞伎を見る人も増えるかもしれない。6北京日本学研究センターこのような草の根のアプローチのほか、日本を深く理解している専門家が中国にいることも重要である。何かの時に、日本を理解しないで反応されるより、理解して反応をしてもらえる方が遥かに良い。1972年の日中国交回復交渉で外務大臣だった大平総理が1979年に訪中。これも外交史料館で当時の資料を紐解くと、大平総理訪中の目玉は円借款が重要な柱だったが、バランスのとれた日中関係の増進のため、経済面での協力に加えて、文化面での協力を合わせて打ち出すことが必要だったとのこと。当時、中国には100万人ないし200万人と言われる日本語学習者がおり、ラジオ講座用のテキスト240万部がたちまち売り切れたという。ちなみに中国は今でも日本語学習者数は世界一で昨年ついに世界中で100万人を突破した日本語能力試験応募者約103万人のうち約27万人は中国での応募者とダントツの1位。その時の華国鋒主席との合意に基づいて、日本語研修センター(いわゆる大平学校)を1980年に設立。その後、85年に北京日本学研究センターとなり、現在、北京外国語大学と北京大学の2か所に『封印切』(亀屋忠兵衛:鴈治郎、丹波屋八右衛門:芝翫)©松竹株式会社ファイナンス 2018.122平和友好条約締結40周年を迎える日中の民間交流 ~中国人高校生のホームステイ留学から歌舞伎北京公演まで~SPOT

元のページ  ../index.html#27

このブックを見る