ファイナンス 2017年12月号 Vol.53 No.9
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本書は、その帯にあるように「福田元総理、消費者行政推進会議委員、担当行政官が創設とその歩みを今、語る」ものである。「はじめに」で、本書の刊行の動機について、編著者である原早苗氏(元内閣府消費者委員会事務局長)と木村茂樹氏(元内閣官房消費者行政一元化準備室参事官)は、以下の3点をあげる。第一に、消費者庁創設を大きく動かした福田康夫氏を首班とする内閣が2007年に発足して10年という節目の年であること、第二に、消費者を取り巻く環境の大きな変化で、消費者庁・消費者委員会の新たな役割が求められており、そのためにも創設時の理念を踏まえる必要があること、第三に、地方創生において、消費者庁の徳島移転構想が検討されているが、そのような検討を行う際には、消費者庁は、「政府全体の消費者行政の司令塔」として、「政府全体に横串を通す」省庁として設立されたという原点を忘れないこと、である。本書の構成は、「第1章 福田康夫元総理 消費者庁立ち上げを語る―福田康夫元総理へのインタビュー」、「第2章 消費者庁および消費者委員会が設置に至るまで」(木村茂樹執筆)、「第3章 消費者庁および消費者委員会が取り組んできたこと」(原早苗執筆)、「第4章 消費者庁・消費者委員会設立に立ち会って―消費者行政推進会議委員の立場から」(座長であった佐々木毅元東大総長ほか、当時の委員が執筆)、「巻末資料」である。また、第2章には、松山健士氏(元内閣官房消費者行政一元化準備室長)の「消費者庁創設…時代を画する社会改革(消費者行政一元化準備室長としての記憶)」と題する寄稿が付される。第1章は、6ページほどのインタビューである。福田元総理が、当時を回想し、「時代は変化しています。環境や資源の問題という時代の要請もありました。国内事情から見ても、経済は低成長、人口減少時代に入ることも予測され、戦後一貫しての右肩上がりの経済は見直さなければいけない時期で、内外ともに、いままでの生活の仕方や考え方を考え直すときでした。」という。また、アメリカの「コンシューマー・リポーツ」の存在や役割についての深い理解には脱帽した。第2章で、福田総理による消費者庁構想の提唱から法案成立、消費者庁・消費者委員会設立までが手際よく解説されている。構想を取りまとめた消費者推進会議が重要な政策形成の場として役割を果たしたこと、消費者被害の防止やすきま事案への対応などのための新法「消費者安全法」の画期性、個別の作用法の所管問題への対処など、いずれも、行政実務家にとって、とても興味深い内容だ。また、参議院における与野党の勢力が逆転している中での国会での修正協議の経緯は、国会における幅広い政策合意の稀有なモデルケースとして貴重なものだ。松山氏は、その寄稿で、総理が常に推進会議に出席していたことの重み、竹島一彦公取委委員長(当時)が景品表示法の移管を了承したこと、担当した岸田文雄大臣や野田聖子大臣の政治的調整、国民新党代表代行だった亀井静香氏の影響力の行使などを回顧するが、節目に起こった政治レベルでの出来事にも瞠目させられる。第3章では、消費者基本法の改正で2013年以降作成がなされるようになった消費者白書の概要などを簡潔に紹介する。第4章では、佐々木氏など当時の消費者推進会議委員8名が執筆し、当時の思い出、今後への期待などを開陳している。21世紀における消費者行政の重要性をかみ締める1冊である。ぜひ一読をお勧めしたい。評者渡部 晶原  早苗 木村 茂樹 編著商事法務 2017年10月 定価2,500円(税抜)『消費者庁・消費者委員会 創設に込めた想い』22ファイナンス 2017.12ファイナンスライブラリーFINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

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