ファイナンス 2017年12月号 Vol.53 No.9
14/56

1はじめに近年、消費税の脱税を目的とした金の密輸が急増しており、国内においても、金を巡る強奪事件などが発生し、社会的に大きな問題となっている。財務省関税局では、このような事態に対処するため、局内横断的なプロジェクトチームを組織し、議論を重ねたうえで、今般、『「ストップ金密輸」緊急対策』*1(以下、「緊急対策」という。)を策定して、総合的な対策をとることとした。なお、本緊急対策は、11月7日に開催の臨時税関長会議において、うえの財務副大臣から各税関長に対して指示した後に公表された。本稿では、本緊急対策の概要を中心に紹介する。2税関における金密輸入の摘発等の状況税関では、金の密輸事件の摘発が頻発しており、取締りを強化し、摘発した場合には厳正に対処している。金密輸の仕組みの例は、図1に示すとおりであるが、例えば、2,500万円*2の金を密輸した場合、入国時に税関に支払うべき消費税額相当分(200万円)を脱税し、金買取店に消費税込みの価格(2,700万円)で売却すると利益が得られることとなる。税関において、平成28年に金の密輸入を摘発した件数は811件であり、押収量は約2.8トンにのぼるが、密輸摘発は増加の一途であり、平成29年1~9月までにおいても摘発件数が976件、押収量が約4.5トンと平成28年の年間摘発件数、押収量を既に上回っている。なお、緊急対策と同日に公表した平成28事務年度(平成28年7月~翌年6月)における関税等脱税事件の処分結果*3から、金密輸の傾向を見てみると、図2~4のようになる*4。ただし、最近では、クルーズ船旅客による密輸や商業貨物による密輸が増加しており、さらに航空機やクルーズ船の乗務員等による密輸、洋上での取引を行う手口も見られるようになっている。このように、摘発件数が増加しているだけではなく、隠匿手口が巧妙化し、密輸形態、仕出地、犯則者の国籍が多様化しているとともに、大口化も見られている。これらの状況から、単なる個人が密輸を図ることにとどまらず、多くの場合は、組織的に密輸が企てられていることがうかがえる。これまで述べたように、密輸摘発が急増していることなどを踏まえれば、残念ながら税関が摘発しているのは氷山の一角であり、相当程度の密輸による利益が犯罪組織などに流れているおそれがあると考えられる。税関としては、このような状況を看過できないと考え、金密輸を阻止するための緊急かつ抜本的な対策を策定し、着実な実行に向けて取組むこととしたところである。Spot01*1)全文については、http://www.customs.go.jp/mizugiwa/gold/20171107_gold01.pdfを参照。*2)金の価格は約500万円/kgと仮定している。*3)詳しくは、「平成28事務年度における関税等脱税事件に係る犯則調査の結果」(http://www.mof.go.jp/customs_tariff/trade/collection/ka20171107a.htm)を参照。*4)税関で処分した事案は参考(1、2)を参照。「ストップ金密輸」緊急対策について金密輸対策プロジェクトチーム(関税局調査課 課長補佐 金山 茂明)写真 うえの副大臣による臨時税関長会議での訓示の模様10ファイナンス 2017.12SPOT

元のページ  ../index.html#14

このブックを見る