ファイナンス2017年11月号 Vol.53 No.8
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が追いついていないことから、労働分配率が低下していることがわかります(図表2参照)。平成24年度以降の労働分配率の低下について、24年度以降の最も付加価値額の増加に寄与した業種である「建設業」の人件費などの推移をみることで、考察を行います。「建設業」の平成24年度以降の労働分配率は、付加価値額が大きく増加する一方で、人件費が付加価値額ほど伸びなかったため、労働分配率は28年度までに-10.1%ポイント低下しました(図表3参照)。ここで役員・従業員数の推移についてみると、平成24年度以降ほぼ横ばいで推移していることがわかります。その結果、28年度の労働生産性とも言われる一人当たり付加価値額は24年度比で大きく増加し(23.6%)、また役員・従業員が受け取る給与(賞与と福利厚生費を含む)とも言える一人当たり人件費も増加(8.2%)しましたが、一人当たり付加価値額ほど伸びませんでした。これらの結果から、平成24年度以降の「建設業」の労働分配率の低下は、一人当たりの給与がある程度増加しているのにも関わらず役員・従業員数が増加しないこと、労働生産性(付加価値額)の増加に比較して人件費の増加が弱いことが要因と考えられます。国土交通省の建設産業活性化会議の中間とりまとめ(平成26年9月)によれば、建設業での労働力不足について、他産業と比べ賃金や社会保険加入などの労働条件が立ち遅れていることによる離職者の増加や若年者の減少といった構造的な問題があるとしています。また、内閣府の『平成29年度 年次経済財政報告』(いわゆる経済財政白書)では、「現在の労働分配率の水準は、法人企業統計季報ベースでは平成14~20年の景気拡大期を下回っており、企業の賃上げ余地は大きいといえる」と述べています。図表2 労働分配率の推移図表3 建設業の労働分配率・付加価値額・人件費・人員数等の推移(注)※4 金融・保険業を除く全産業※5 比較可能な昭和35年度以降※6 比較可能な昭和35年度以降※7 付加価値額=営業利益+人件費+動産・不動産賃借料+租税公課※8 人件費=役員給与+役員賞与+従業員給与+従業員賞与+福利厚生費62.064.066.068.070.072.074.076.0150.0170.0190.0210.0230.0250.0270.0290.0310.0(兆円)(%)(出所)財務省年次別法人企業統計調査平成1213141516171819202122232425262728298.8 67.6 201.9 人件費(右軸)   付加価値額(右軸)   労働分配率(左軸)(年度)(単位:%、%ポイント、百万円、人)労働分配率付加価値額人件費役員・従業員数役員・従業員一人当たり付加価値額人件費平成24年度80.922,814,47518,454,5524,156,5745.494.44平成25年度79.523,654,50718,803,8474,217,7195.614.46平成26年度75.725,907,66519,611,3664,390,3275.904.47平成27年度73.726,263,34519,346,4414,215,3156.234.59平成28年度実額70.828,148,01119,933,7744,148,4076.794.81増加率・ポイント(24年度比)-10.1%ポイント23.4%8.0%-0.2%23.6%8.2%(出所)年次別法人企業統計調査4ファイナンス 2017.11

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