ファイナンス2017年11月号 Vol.53 No.8
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連 載|日本経済を考える帯員の収入、資産収入、現金給付その他、税・社会保険料といった所得要素が世帯の所得格差に与える影響について寄与度分解を行う。対外的には『国民生活基礎調査』から算出された値が用いられることが多く、OECDには国立社会保障・人口問題研究所が『国民生活基礎調査』に基づく所得データを提出している。比較を行う上で、『全国消費実態調査』と『国民生活基礎調査』で調査目的、実施頻度、調査対象(あるいは対象外)等の違いがあることを予め念頭に置く必要がある。加えて、所得分類のうち、何が可処分所得に含まれるのかについて把握することが、分析に整合性を持たせる上で重要である。なお、『国民生活基礎調査』の調査項目には退職金、生活保険・損害保険、医療現物給付は含まれていない。また、『国民生活基礎調査』は一般的に言われているように、高齢者世帯や郡部・町村の居住者が多く、収入が低いサンプルが多いことに注意しなくてはならない。樋口他(2003)によると、家計簿をつける『全国消費実態調査』は機会費用の高い高所得者や家計簿をつける余裕のない低所得者のサンプルが抜け落ちる可能性があるが、家計簿をつける必要のない『国民生活基礎調査』は、より低所得や高所得の世帯の回収率が高いと考えられるとしている。前出の大竹(2005)でも、『国民生活基礎調査』で相対的にサンプリングバイアスが小さいのは、ランダムサンプリングで選ばれた調査単位区内の全世帯を調査対象にしているからであるとしている。本稿では『国民生活基礎調査』の平成16年(2004年)、平成19年(2007年)、平成22年(2010年)の3回分の個票データを用い、年代としては、2000年代の所得格差の変化の分析を行う。世帯の所得格差は、可処分所得により把握する必要があり、世帯の可処分所得はその世帯の世帯人員数に影響されるので、本論文では等価可処分所得を用いる。等価可処分所得の求め方は後述する。図3は、『国民生活基礎調査』の平成22年(2010年)の世帯主の年齢別のカーネル密度推定による分布である。図の横軸の「headage」は世帯主の年齢を表している。日本の人口ピラミッドと比較すると、いわゆる第一次ベビーブームの60歳~70歳のピークがあることは共通しているが、人口ピラミッドのもう一つのピークである第二次ベビーブームの40歳前後のピークが小さ過ぎる感がある。いずれの調査年度も60歳を超えたところに偏ったピークがあり、『国民生活基礎調査』の世帯主の年齢分布が高齢者に若干偏っていることが見て取れる。図4は、内閣府・総務省・厚生労働省(2015)の1999年~2012年の『国民生活基礎調査』と『全国消費実態調査』の公表値に基づく相対的貧困率の推移である。相対的貧困率は、『国民生活基礎調査』に基づいて算出するよりも、『全国消費実態調査』に基づいて算出する方が低い数値となる。平成22年の『国民生活基礎調査』の相対図3 世帯主の年齢別の分布(平成22年度)Kernel density estimateheadage20406080100Density0.005.01.015.02.025kernel=epanechnikov, bandwidth=1.8835(出所)『国民生活基礎調査』平成22年度個票より筆者作成。図4 1999年~2012年の相対的貧困率の推移(%)18161412108642019992000010215.39.19.510.114.915.716.016.103国民生活基礎調査全国消費実態調査040506070809101112(年)(出所)内閣府・総務省・厚生労働省(2015)『相対的貧困率等に関する調査分析結果について』52ファイナンス 2017.11

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