ファイナンス2017年11月号 Vol.53 No.8
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連 載|日本経済を考えるると下がっている傾向にあると見受けられ、今後もこの傾向が続くのか、ジニ係数の動きを注視する必要がある。なお、1990年代後半以降については就労収入の格差は拡大しており、太田(2005)によると、特に男性若年層における就労収入の格差拡大は非正規割合の上昇が原因である。図2のように完全失業率は2011年以降、低下に転じており、2013年以降はリーマンショック前の水準に回復している。これに対し、非正規雇用労働者割合の推移は2004年以降、若干の上下はあれども一貫して上昇傾向にある。太田(2005)に続く太田(2006a)*3では、2000年前後を境にして男性常用一般労働者は若年層である20歳代に限らず、30歳代及び40歳代でも就労収入の格差が拡大していると結論付けている。当初は若年層で20歳代であった階層が年齢を重ねても、そのままの格差を引きずり、30歳代、40歳代となっていることが伺える。また、太田(2006b)は、『国民生活基礎調査』の税・社会保険料等の数値と、再分配に関する既存研究等を基に算出した各国の数値との比較で、再分配を構成する税・社会保障負担及び給付について、日本と各国のジニ係数の変化等の比較を行っている。そして、日本は欧米諸国と比べて再分配効果が小さく、その理由としては社会保障給付では労働年齢層への給付が少ないことに加えて、税による再分配効果が小さいことが寄与しているからだと結論付けている。しかしながら、太田(2005)及び太田(2006a及びb)等で言うところの格差の拡大は、いずれも個人すなわち世帯を構成する各世帯員の就労収入での格差の拡大であり、世帯収入で見ると共働きの場合は「配偶者」の収入、パラサイト・シングル等の収入がある場合は「その他の世帯員」の収入の影響が考えられ、当該年代の格差の拡大は依然小さいものである。世帯収入は各世帯員の就労収入の積み上げであり、個人と世帯で見た結果が異なるとすれば、なぜ違いが出るかの分析が必要となる。これが、四方・田中(2016)と本稿の着眼点である。世帯でみた所得格差に反映されていないのは、賃金格差(就労収入の格差)と世帯所得の格差の違いにあり、世帯所得を構成する所得要素を一つ一つ分解して分析する必要がある。2.国民生活基礎調査を用いる上で、その特徴についての考察先行研究である四方・田中(2016)では『全国消費実態調査』を用いているが、本稿では『国民生活基礎調査』の個票を用いて、世帯主年齢別に世帯主の収入、世帯主の配偶者の収入、他の世*3)『賃金構造基本調査』(厚生労働省)を用いて、賃金データから個人の就労収入の分析を行っている。図1 1986年~2010年のジニ係数の推移(国民生活基礎調査)0.300.310.320.330.340.350.360.370.380.390.40198619891992199519982001200420072010出所:2001年までは勇上(2003)、2004年以降は国民生活基礎調査から筆者が作成。図2 日本の完全失業率と非正規雇用労働者割合の推移(2004年~2016年)29.028.030.031.032.033.034.035.036.037.038.00.01.02.03.04.05.06.02016201520142013201220112010200920082007200620052004完全失業率非正規雇用労働者割合出所:総務省「労働力調査(詳細集計)」より筆者が作成。ファイナンス 2017.1151シリーズ 日本経済を考える71

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