ファイナンス2017年11月号 Vol.53 No.8
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なお、フランスでは一般社会税(CSG)など多額の税収が社会保障財源に充てられているが、これらは一般会計を経由せず、社会保障給付の任務を帯びる各種金庫の歳入に直接計上される。したがって、一般会計歳出に社会保障費がほとんど計上されず、この点が日本と大きく異なる。また、地方向け譲与やEU向け譲与については、一般会計の歳出には含まれないが、便宜的にそれらを一般会計に足した数字で、歳出規模が語られることが多い。予算編成の前提となる経済の状況であるが、現在のところ、回復の方向に転じており、本年は実質成長率1.7%、2018年以降2021年までも1.7%成長が続き、2022年には1.8%になると想定されている。そして、減税を行うにもかかわらず、こうした景気の回復による税収増見込みと歳出抑制に支えられて財政の健全化が達成できる姿となっている。ただ、元をたどると、この景気回復の一部は、オランド政権末期に、まさにマクロン経済大臣が担当していた改革によってもたらされたものかもしれない。ただし、フランスの独立財政機関である財政高等評議会は、景気変動の要素を除いた「構造的財政収支」の赤字水準は、2018年においてまだ高く、元々の想定よりも減り方が少ないと指摘し、税収が予定より増加したとしても、歳出増加にあてるべきではない、とも指摘することを忘れていない。なお、フランスの予算法案は、年末までの議会での審議の結果、さまざまな修正が施されるため、最終的な姿が現在のものと異なる可能性はあるが、以下、2018年予算法案について、税制改正、歳出、そして今後の財政の見通しの3つに分けて詳しく見てみたい。7税制改正(1)投資・イノベーション促進マクロン政権の基本的な考え方は、「富を再分配する前に、富を創らなければならない」というものであり、富を創らないまま再分配だけをしてしまえば、結局は財政赤字が拡大しかねないとの問題意識に立っている。このため、企業側に対しては、企業の成長・雇用・投資を促進するため、法人税率を2022年までに25%まで引き下げるとともに(図表2)、競争力と雇用のための税額控除(支払給与の一定割合を法人税等から税額控除)を2019年から雇用主の社会保障負担等の軽減の仕組みに改め、法定最低賃金水準の給与については9.9%、法定最低賃金水準の2.5倍の給与については6%の率で負担軽減を図るように改めることとしている。一方で、企業の資金調達を容易にする観点から、投資家に対する負担軽減として、現在は総合課税されている金融所得(利子・配当・有価証券譲渡益)に対して30%の単一税率(内訳は所得税(図表1)フランスの一般会計の歳出構造所得税727 法人税253 付加価値税1,528 エネルギー産品内国消費税133 その他税収 246その他収入 132 財政赤字843 一般会計歳出3,258 地方向け譲与403 EU向け譲与 202 01,0002,0003,0004,000歳入歳出(億ユーロ)(図表2)法人税率の引下げの行程2018年50万ユーロ超の利益部分33.33%、50万ユーロ以下の利益部分28%2019年50万ユーロ超の利益部分31%、50万ユーロ以下の利益部分28%2020年全ての利益に対して28%2021年全ての利益に対して26.5%2022年全ての利益に対して25%ファイナンス 2017.1123マクロン政権の誕生、そして初の予算編成 SPOT

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