ファイナンス 2017年10月号 Vol.53 No.7
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書を書き上げています。毛が長いため簡単にねじれてしまいますが、そうならないよう筆の面に意識を集中しています。筆を扱うとき、早く上達するには、皆さんも筆の面を意識してもらえると良いと思います。例えば、「の」という字を書くとき、まずは手前の面を使い、その次は左側の横面を使い、筆の裏側を通って、右面を使い、表に戻ってくるという、筆の動きです。筆面をうまく扱えると上達は早くなりますね。3.代表的な作品①大河ドラマ「龍馬伝」代表的な作品を少し見ていただこうと思います。大河ドラマの「龍馬伝」の題字も書かせていただいています。ロゴの制作時に意識していることは、「表現したいことと表現物をできるだけ矛盾させず、できるだけ一致させる」ことをイメージしています。オリンピックのエンブレムもそうですが、最初にできるのがシンボルマーク。大河ドラマの題字は、まだストーリーも主役以外のキャストも定まっていない早々に決定するロゴになります。ロゴを作成するときに決定していたのは、福山雅治さんが主演をすることと、「龍馬伝」のタイトルのみでした。ですので、頭の中でイメージを膨らませます。龍馬といえば桂浜を眺めている立ち姿の像。その像の姿を福山雅治さんに置き換えたときに、隣に入る福山龍馬を引き立たせる題字になるよう仕上げ、NHKにプレゼンさせていただきました。「龍」という字は恐らく中国や日本の書道家が一番書く文字かもしれませんね。龍は見ての通り、横にたくさん線があります。横にたくさん線があることはボーダーのTシャツを着ているのと同じで横に広がりやすい。何千年も生きているような龍なら表現しやすくもあるのですが、そうではなくて、33歳の若さで命を失った龍馬。若々しさと、ぐっと背の高い大柄な印象を持たせるために、龍の書は横に広がらずに縦に若々しく背筋が伸びたように書いています。そして「馬」という字、馬の横線が馬のたてがみにあたります。下の点、点、点、点は、尾と足です。それこそ、天空を駆けめぐるかのように日本中を駆けめぐった坂本龍馬さん。その動きをあらわすために、馬という字のたてがみにあたる部分はしっかりとめずに、風になびかせています。そして型にはまることのなかった龍馬を表現するために、本来、点は内側に全部4つ収まりますが、1つ点をあえて外すことで、型におさまらない龍馬の動きや考え方を表現しています。最後は「伝」、北辰一刀流の免許皆伝でありながら、一度も人の命をあやめなかった龍馬さん。「伝」の最後の一角は、太刀筋をイメージ、最後はしっかり寸止めにしています。しっかり考えられたロゴを使うことと、そうではないロゴを使う差ですが、しっかり考えられてつくられたものは長持ちし相応の結果を導くと信じています。番組は、多くの人たちのお力で、視聴率も高く大成功に至ることができました。私自身もこの字で、「手島右卿賞」という書の世界での芥川賞をいただきました。②NHK「美の壺」続いてはNHKの美術番組「美の壺」です。NHK様より13年前に、今までになかった美術番組を作りたいという御依頼をいただきました。題字によるオープニングも合わせて制作しています。コイの尾が書を書いております。平面的にではなくて、立体的に書く。くるり回転し正面に向くと文字になります。この美の壺は、1年の放送予定でしたが、現在12年目、NHKを代表する長寿番組に成長しました。他にも伊勢神宮の20年に1回の御遷宮や春日大社の御造替の題字、ディズニーなどの映画のタイトル、ミラノエキスポの日本館などで活動させていただいています。4.無限に発想していく法則ここからは、「無限に発想する」方法です。私の仕事は、発想することだと思っています。46ファイナンス 2017.10連 載|セミナー

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