ファイナンス 2017年10月号 Vol.53 No.7
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夏季職員トップセミナー ます。その場合は、意識が毛先にしかとどまっておらず、根元にまで行き渡っていない。根元も毛先と同じように意識を置きながら書き進めますと真っすぐな線が書けます。今日使っている他のお道具は、紙は人間国宝、福井県の岩野市兵衛さんのものを使わせていただいております。書の文化は実は衰退がゆるやかに始まっています。どの文化も最初に衰退するのがお道具です。私の使わせていただいている和紙や画仙紙も人気の3社から取り寄せておりましたが、すでに2社が廃業、唯一今取り扱えるのが、この岩野さんの紙です。非常によい紙を漉いても、和紙の廃業は相次ぎます。それはどの文化も、お道具をつくる人の後継者不足や生活が成り立たないなどの事情から廃業、文化と関わる人のお道具からまずは消えていきます。和紙の現状は今の日本文化の縮図のようです。では早速書いてみたいと思います。財務省の皆さんは、「人財」、一人一人のお力が宝、を普段からお使いだと思います。今日書かせていただいたのは、官僚の皆様は、お一人お一人が坂本龍馬のような存在だと思っていますので、龍馬のお言葉を書かせていただきました。「世に生を得るは事を為すにあり」と書いています。この世に生を受けた限り、どの人にも自分がなすべきことがしっかりと人生の中に準備されていて、その事を為しとげていこうと坂本龍馬さんはおっしゃっているように思います。皆さまに合う講演のスタートにふさわしい言葉として披露いたしました。こちらはプレゼントさせていただきたいと思います。2.ライブパフォーマンス、ワークショップではこれから講演を始めます。ふだん書いている書をいくつか見ていただいた後、皆さんと発想について、そして西洋と日本の違いについてお話してまいります。まずは書のライブパフォーマンス、日本の文化を世界に発信するために行っています。床に向かって書くとたくさんの人が見ることができないので、和紙一枚を立てて書くようにしています。ライブ感を楽しんでいただき、座ったまま鑑賞できる書の披露の仕方はないかと考えたときに、和紙を床に平行に設置することをやめ垂直に立てることを思いつきました。和紙は繊維が絡み合っていますし、非常に丈夫です。表からも裏からも書いても破れにくい、日本伝統の技です。ライブで描いた翼の部分と文字は、日本の伝統表現である“ろうけつ染め”の手法で、透明な液体で文字を書いていきますが、その上は絵の具や墨をはじくため、文字を白抜きにすることができます。他にも、書のワークショップも行っています。この秋の10月の3連休にも12年連続開催している「Love Letter Project」がありますが、日本人に加え外国人に向けても行っています。禅の要素にも近いのですが、参加者には、自分の心の中を内観する時間を設け、それから筆を持つようにしてもらっています。文字は美しく書くというよりも、感情がより伝わるような文字を自身の手で20種類ぐらい生み出し、最も伝えたいメッセージが伝わる、言葉の想いが伝わるような1書体を選びます。例えば温かい文字、力強い文字、勇気が出る文字など、それぞれが選び取ったその書体が完成形になります。普段は今御覧いただいた、この筆でほとんどのファイナンス 2017.1045連 載|セミナー

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