ファイナンス 2017年10月号 Vol.53 No.7
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夏季職員トップセミナー だったのですが、何をやるのかという「気づく」からスタートして「伝える」。それがどういう価値を生むのかということを「伝える」ところまでやっていかなければいけないと思っております。では、「気づく」というところは一体何をやるのということで、例えばライフストロー社(LifeStraw)のビジネスモデルですけども、結構参考になります。これは水のフィルターをつくっている会社ですが、アフリカに無料でこのフィルターを配っています。これはCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)かと思ったのですが、しっかりとしたビジネスにつなげています。では、いったい彼らはどこからお金を得ているのかというと、CO2の排出権取引です。すなわちこの水のフィルターを配ることによって、そこに住んでいる方々の林や森に行って木を伐採して燃やさなくても済み、CO2を排出しないということでCO2の排出権取引でお金を得てフィルターを無料で配っている。グーグルの広告モデルみたいなものです。第三者からお金を得て、無料でサービスを提供する。我々も、例えば、センサーのお金を誰が払うのかと考えると、第三者からもらうようなスキームというのも考えておかないといけないということで、「気づく」ことは、技術屋でも重要ではないか。そうじゃないと、技術で勝っても事業で負けることになってしまう。「伝える」ことについてもそうです。プラネット・ラブス社(Planet Labs)ですが、これはアメリカの小型衛星を打ち上げるスタートアップですが、彼らは最初の説明と1年後の説明ががらりと変わっております。最初の説明は、全然だめだったのです。それはどういうことかというと、「今まで衛星は10年保証でした。したがって、高コストになっていました。弊社はコストをぐっと下げて、半年だけもてばいい衛星を、100台、200台、数百台打ち上げます。」という説明をしたら、ベンチャーキャピタルの人たちは「ふーん、勝手にやりなさい」となり、一切お金はつかなかったのです。そこで、プラネット・ラブス社は考えて、1年後に「100台、200台衛星を打ち上げられると、スーパーマーケットのチェーン店の駐車場に、今現在車が何台駐車しているのか。あるいはライバルのお店で何台車が駐車しているかがわかります。そうすると株価もある程度推測できるかもしれません」と説明したら、一気にお金がつきました。これは私たちのような技術屋からすると結構悩ましいですね。技術は一緒だけど、説明の仕方だけでがらりと変わるところがあり、もっと説明にリソースをかけなければいけないのかなと思います。最近マーケティングというものを数年間勉強しました。そうしたら当たり前のことしか言ってないのです。ピーター・ドラッカーは「顧客の創造である」とか、フィリップ・コトラーは「隠れたニーズを発見する」とか、クリステンセンは「顧客のジョブに焦点を当ててイノベーションのシーズを見つけなさい」と。当たり前のことを学問にするのは、それもオリジナリティーだなと思ったのですけど、こういう発想とか視点が技術屋とか研究者にも必要になってきたのは、イノベーションとインベンションのハードルがちょっと変わってきたからなのかなと思っております。こういう意識を持ちながら、社会の隅々に今のアナログのプロセスを少しずつ地道にデジタル化へと進めていくお手伝いができればというふうに考えております。ご清聴ありがとうございました。講師略歴森川 博之東京大学大学院工学系研究科 教授1987年に東京大学工学部電子工学科を卒業後、東京大学大学院工学系研究科博士課程を修了。コロンビア大学客員研究員、東京大学大学院工学系研究科教授、先端科学技術研究センター教授などを経て、2017年より東京大学大学院工学系研究科教授に就任し、現在に至る。ファイナンス 2017.1043連 載|セミナー

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