ファイナンス 2017年10月号 Vol.53 No.7
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セクターは空港/港湾/鉄道/道路、通信セクターは携帯電話/固定回線、水・衛生セクターは水/衛生のサブセクターにそれぞれブレイクダウンした積算の記述があり(電力はサブセクターに分けられていない)、今次報告が示すセクター別の需要予測額もそのカテゴリーに倣った積算の結果と考えられる。最大の割合を占める電力セクターに関し、今次報告は、温室効果ガス軽減のための需要増が見積もられ、その割合が大きくなっていると説明している。基本予測額に上乗せされる気候変動コストは3兆6,150億ドル(年平均2,410億ドル)であるが、同コストのセクター別内訳は、電力3兆420億ドル、交通・運輸5,570億ドル、水・衛生150億ドルであり(通信はごくわずかであり数値化されていない)、気候変動コストの84%が電力セクターの需要である。なお電力セクターに次いで大きな需要が予測される交通・運輸セクターにおける気候変動コストに関し、今次報告は、温室効果ガス排出の少ない移動手段への転換(自家用車から公共交通機関など)を通じ大きく貢献し得るとしつつも、同転換はインフラ投資よりむしろ当該国の交通・運輸政策や適切な規制の導入によって取り組まれるべきものとしている。今次報告では、2016年から2030年までに予想される新規インフラ需要とメンテナンス・整備需要の比率を、基本予測額で4:3(57%:43%)、気候変動調整済み予測額で3:2(60%:40%)としている。2009年にシームレスアジアが示した2010年から2020年における同比率は68%:32%であったことを踏まえれば、メンテナンス・整備需要が相対的に大きくなっていることが分かる。同比率の推移と同じように、今次報告は、将来のインフラ需要は、新規インフラ建設からメンテナンス・整備にその重点が移行していくとの見通しを示し、既に交通・運輸、通信、水・衛生セクターではメンテナンス・整備の需要が新規インフラ建設のそれを上回っているとしている。今後、各国・地域においてインフラ整備が進みインフラストックが増加していくに連れて、より一層、メンテナンス・整備への投資需要の割合が大きくなっていくと予測される。5 おわりに以上のように、断片的ではあるものの「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」が示すアジア太平洋のインフラ需要予測を概観した。シームレスアジアが扱った2010年から2020年の期間と比べ、今次報告が示した2016年から2030年のアジア太平洋のインフラ需要予測額は、より多くのDMCを対象としていること、2008年から2015年への価格上昇コストが含まれることを考慮に入れてもなお、同地域のインフラ需要が引き続き存在し、また気候変動コストを含めればなお一層増加する見通しであることが分かった。さらにインフラ需要の特定の地域及び国への集中度合いについても示唆を得ることが出来た。本稿では紙面の関係から取り上げていないが、今次報告は、インフラ需要予測額の他、現在の投資規模と今後必要な投資規模の差を示すインフラ投資ギャップ*11、公的資金の効率的な動員やPPPに代表される民間資金呼び込みを可能とするための施策*12などについても議論を展開しており、多くの示唆を得ることができよう。(なお、本稿で示した見解は筆者個人に帰属するものであり、所属先組織の公式見解を示すものではない。)*11)今次報告では、2016年から2020年の25DMC(統計データ入手可能な国、中国除く)のインフラ需要予測額を5,030億ドルと見積もった上で、現在の同地域へのインフラ投資額を公的セクター1,330億ドル、民間セクター630億ドルとしている。その差(投資ギャップ)を埋めるためには、公的セクターから1,210億ドル、民間セクターから1,870億ドルの投資が必要とし、民間資金動員の必要性を述べている(ADB(2017), p59)。*12)政府による資金調達を強化する革新的な方法として、Land Value Captureによる資金調達の可能性などが議論されている(ADB(2017), p60-62)プロフィール塚本 剛志(つかもと ごうし)2001年外務省入省、中南米局、国際協力局等を経て、2016年7月から現職(出向)。ファイナンス 2017.1029海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連 載|海外ウォッチャー

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