ファイナンス 2017年10月号 Vol.53 No.7
31/60

告の主な貢献の一つとされる。2016年から2030年の気候変動調整済み予測額は、基本予測額の16%増である26兆1,660億ドル(年平均1兆7,440億ドル)に上り、同期間のアジア太平洋のGDP予測値の5.9%となる。上乗せされる気候変動コスト3兆6,150億ドルの大半は、電力セクターにおける温室効果ガス排出軽減コストとされる。また気候変動調整済み予測額は、今次報告の対象である電力(Power)*7、交通・運輸(Transport)、通信(Telecommunications)、水・衛生(Water and Sanitation)の4セクターに限った予測額であり、それら以外にも気候変動コストを伴うと想定されるセクター、例えば、灌漑、食糧安全保障、洪水管理を含む災害リスク管理、海岸保護などに見込まれるインフラ需要は含まれていない。さらに、今次報告は、アジア太平洋の経済成長が低成長であった場合のシナリオ(2016年から2030年のアジア太平洋の経済成長率4.3%)と、高成長であった場合のシナリオ(同6.3%)も示しているが、低成長の場合は24兆2,570億ドル(年平均1兆6,170億ドル)、高成長の場合は28兆1,750億ドル(年平均1兆8,780億ドル)と見積もられ(いずれも気候変動調整済み予測額)、2016年から2030年までのインフラ需要予測額はその範囲内と想定される。3 地域及び国別のインフラ需要見通し今次報告が対象とするADBの全45DMCは、東は太平洋諸国、西はコーカサスまで及び、各地域及び各国・地域の経済規模、また経済社会発展の度合いは著しく多様であり、予想されるインフラ需要の規模にも大きな違いがある。まず地域別のインフラ需要予測額を概観する。気候変動調整済み予測額26兆1,660億ドルの地域別内訳は、東アジア16兆620億ドル(61%)、南アジア6兆3,470億ドル(24%)、東南アジア3兆1,470億ドル(12%)、中央アジア5,650億ドル(2.2%)、太平洋460億ドル(0.1%)となっており*8、図1のとおり東アジアの需要が際立っている。次いで割合の大きい南アジアを加えると、実にインフラ需要予測額の86%が両地域に集中している(後述のとおり、中国とインドが大半を占める)。とりわけ東アジアは、既存インフラストックのメンテナンス・整備のために巨大な投資を必要としている。基本予測額に上乗せされる気候変動調整済み予測額の年平均は2,410億ドルだが、そのうち1,520億ドルが東アジア、特に中国における気候変動に配慮した発電所、送電及び配電施設にかかる需要として見積もられている。続いてDMC別の需要予測に関し、今次報告には地域別の需要予測額の積算根拠となるような各DMCの需要予測額、あるいはその割合に関する詳細な記述はないが、各地域でそれぞれ最大の割合を占める中国、インド、インドネシアの3カ国については具体的な予測額の記述があるところ、それに従い同3カ国が占める割合を計算することができる。それによれば、中国15兆2,670億ド図1 2016-2030年 地域別の気候変動調整済み予測額(地域、$billion、%)東アジア、16,062、62%南アジア、6,347、24%東南アジア、3,147、12%中央アジア、565、2%太平洋、46、0%筆者作成*7)シームレスアジアでは「Energy(electricity)」、今次報告では「Power」と表記されている。*8)本調査では、パキスタン及びアフガニスタンは南アジアに、東ティモールは太平洋に含まれる。ファイナンス 2017.1027海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連 載|海外ウォッチャー

元のページ  ../index.html#31

このブックを見る