ファイナンス 2017年10月号 Vol.53 No.7
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連 載|海外ウォッチャー要予測額に関し、シームレスアジアとも比較しつつ概観し、2016年から2030年にかけてアジア太平洋が直面するインフラ需要をより深く理解することを目的とする。2 2016年から2030年のインフラ需要予測額2017年2月に発表され、シームレスアジアに続くADBによるインフラ需要予測としてメディア等でも紹介された今次報告は、シームレスアジアとは異なり、2種類の予測額を提示している。一つ目は、シームレスアジアに倣った算出手法によるものであるが、2009年当時より精緻化されたデータ及びADBプロジェクトの経験や最新の文献に従った変数を用いた基本予測額(baseline estimate)である。基本予測額は、対象地域・国における既存のインフラストックと、今後、インフラサービスの需要と供給に影響を与え得る主要な経済的及び人口的要素との関係に基づき算出されている。例えば、古くなったインフラストック、一人当たりGDP、人口密度、都市人口割合、GDPにおける農業及び産業セクター割合などが考慮されている。今次報告によれば、2016年から2030年の基本予測額は22兆5,510億ドル(年平均1兆5,030億ドル)に上り、同予測額は同期間のアジア太平洋GDP予測値の5.1%に相当する規模となっている。ところで、2009年のシームレスアジアは、2010年から2020年の11年間のインフラ需要予測額を7兆9,917億ドル(年平均約7,300億ドル)*5としており、今次報告の予測額と比べると、対象期間が異なるとはいえ、2016年以降は年平均需要が2倍超に増加するなど大幅な違いがある。この増加要因に関し、いくつかの理由が上げられている。まずシームレスアジアでは、調査の対象が32DMCであったのに対し、今次報告では調査の対象を全45DMCに拡大している*6。追加された13DMCには、韓国、台湾、シンガポール、香港、ブルネイといった、経済発展状況に鑑み既にADBが支援を実施していない国・地域のインフラ需要予測も含まれる。またシームレスアジアでは、2008年価格に基づいて需要が試算されたが、今次報告は2015年価格に基づいており、2008年から2015年の価格上昇分が予測額の差に反映されている。そして2016年から2030年のアジア太平洋では、シームレスアジアが対象とした期間よりもより一層の経済成長が予想されており、それに伴う新たなインフラ需要が加わったとしている。したがって、今次報告が示すインフラ需要予測額は、必ずしもシームレスアジアと同じ前提の下で算出されているわけではない点、留意する必要がある。しかしながら、今次報告は、シームレスアジアとの比較を容易にするため、2016年から2030年に予測されるインフラ需要のうちで、シームレスアジアが対象とした32DMCのみ、また2008年価格で算定した予測額も提示している。それによれば、2016年から2030年のインフラ需要予測額は17兆4,260億ドル(年平均1兆1,620億ドル)であり、シームレスアジアがカバーした時期との比較では年平均で50%以上増加していることが分かる。いま一つの予測額は、インフラ整備に伴うことが期待される気候変動の緩和と適応のためのコスト(温室効果ガス排出軽減、海面上昇や極端な気象現象への強靭性増強のための追加的コスト)を基本予測額に上乗せした気候変動調整済み予測額(climate-adjusted estimate)である。同予測額は、シームレスアジアでは提示されておらず、今次報*5)シームレスアジアでは、各国国内のインフラ需要予測額を積算した額($7,991,709 million、年平均$730 billion)と、国境を跨ぐ地域協力案件1077件の需要を含めた額を提示している($8,280 billion、年平均$750 billion)。*6)シームレスアジアで対象とした32DMCに加え、今次報告にて新たに対象とされた13DMCは次のとおり。トルクメニスタン、香港、韓国、台湾、モルディブ、ブルネイ、シンガポール、クック諸島、マーシャル、ミクロネシア、ナウル、パラオ、ツバル。26ファイナンス 2017.10

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