ファイナンス 2017年10月号 Vol.53 No.7
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FOREIGN WATCHER海外ウォッチャー1 はじめに今から8年前の2009年、アジア開発銀行(ADB)及びアジア開発銀行研究所(ADBI)は「Infrastructure for a Seamless Asia(以下、シームレスアジア)」*2を発表し、2010年から2020年までの11年間で、アジア太平洋の開発途上国・地域が直面するであろうインフラ需要を約8兆ドル(年平均約7,300億ドル)と試算した。それは、ADBが開発途上加盟国・地域(Development Member Countries:DMC)とする全45DMCのうち32DMCにおける、エネルギー、交通・運輸、通信、水・衛生の4セクターのインフラ需要の見通しを示すものであった。そしてその次のディケイドの見通しとして、2017年2月、ADBは新たに「Meeting Asia’s Infrastructure Needs(以下、今次報告)」を発表し、シームレスアジアが示した需要予測をアップデートするものとして、2016年から2030年までの15年間の期間、全45DMCを対象とするインフラ需要予測を新たに提示した。そもそも、将来の、しかも10年以上もの長期にわたって、ある特定の地域、あるいは国において生じるインフラ需要を正確に算出することは可能なのであろうか。今次報告では、数値化したインフラ需要予測額*3は、アジア太平洋地域、あるいは個々の国・地域における将来の最適なインフラ投資を見通すもの(forecasts)として意味づけられるものではなく、経済活動、経済構造、人口統計の推移といった多様な仮定に基づき、今後どのようにインフラ需要が推移していくのかについての案内(guide)であるとしている*4。また、あらゆる大型プロジェクトの計画、デザイン、ファイナンス、建設は悩みをもたらすものであり、長期に及ぶインフラ投資は一層困難なものとしつつも、将来のインフラ投資需要を見積ることは、その取組みの結果が一般的な鳥瞰的視点によるものであったとしても、将来のインフラ開発及び優先順位がいずれに所在するのかを示し、政策決定者の意思決定を助けるとしている。提示された一連の需要予測が案内であるとの性格を考慮に入れつつも、2030年までの長期的視点に立ち、入手し得る情報及び仮定に基づき算出されるインフラ需要予測額は、大きな示唆を与えるものであることは間違いない。本稿では、今次報告が示した様々な見積りのうち、特に、インフラ需要予測額、地域・国別、またセクター別の需ADB報告書「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」*1が示す アジアのインフラ需要予測アジア開発銀行(ADB)日本理事室 理事補 塚本 剛志*1)ADB(2017), Meeting Asia’s Infrastructure Needs*2)ADB and ADBI(2009), Infrastructure for a Seamless Asia*3)報告原文では「estimate」及び「estimating」といった単語で、インフラ需要額の見積りを示しているが、本稿では同報告ハイライトの日本語版である「アジアのインフラ需要に応える Meeting Asia’s Infrastructure Needs ハイライト」の和訳に従い、「estimate」及び「estimating」を予測ないし予測額と訳す。*4)報告原文の該当部分は次のとおり。“the infrastructure estimates here are not meant as forecasts for optimal infrastructure investments in the future for the region or individual countries. They are instead simply a guide on(以下省略)”, ADB(2017), p39ファイナンス 2017.1025連 載|海外ウォッチャー

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