ファイナンス 2017年10月号 Vol.53 No.7
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ルーマニアの上空を飛んで、アレックスのことを思い出していたんだ。」別れの時刻が近づいた。何度も何度も別れを惜しみながら、彼は地下鉄パディントン駅の雑踏の中に消えていった。今度はいつ会えるのだろう?いくらインターネットが発達して画像や映像のやり取りが簡単にできる世になっても、やはりまた対面して会いたいものだ。仮にこれまでと同じ34年の歳月を費やするならば、私は90歳を超えてしまうことになる。もう34年の空白はありえないであろう。•IMFが守った友情思えば不謹慎ながら私は、少しばかりの外国初体験をして、些かなりとも英語が上達すれば良いといった気持ちで参加したIMFでの研修であった。かたやアレックスにとっては、IMFで研修を受けていたがために、政変を生き延びることができたのだ。まさに、その後の命運を分けた研修と思えてならない。そして彼は新国家建設にとって不可欠な人材とされ、彼もまたそれによく応え、まずはIMFに職を得てかつての研修成果を十二分に発揮し、1993年からはEBRDでの仕事を通じて東欧の経済改革に尽力し、98年にはph.D.の学位も取得した。生まれた国の体制によって、同じ研修を受けてもこんなにも違うものなのである。アレックスと私の友情は、国際経験も少く、「国際派」とは言えない私にとっては稀有なものであるが、それは、東西冷戦の終結という時代をはさんで、IMFで出会い、育まれ、そしてIMFが守ってくれた友情であったと思うと、ひときわ感慨深いのである。(注)“Gold, International Reserves and Foreign Debt. The Case of Romania” Central Bank Journal of Law and Finance (YearⅢ, no.2, 2016) p.37Mr. Alexandru M. Tănase筆者プロフィール百嶋 計(ひゃくしま はかる)1981年大蔵省入省。理財局計画官、国税庁人事課長、同審議官、名古屋国税局長、大臣官房参事官等を経て、2015年4月より現職。ファイナンス 2017.1021あるルーマニア官僚との友情――政変を越えて(下) SPOT

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