ファイナンス 2017年10月号 Vol.53 No.7
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ことになったが、その時彼は既にワシントンを去っていた。しかし、アレックスとは、彼の名にも通じるアレクサンドル・デュマの小説、「モンテ・クリスト伯」に準え、長い歳月を経てもいつか必ず再会しようとレターで約束し合った。それから20年余りの歳月、毎年毎年再会の約束を互いに確認し合ってきたが、それは容易には実現できなかった。•34年ぶりの再会へ時は流れ出会いから30年が過ぎた2013年、私は造幣局に勤務となり、2015年からは理事長に就任した。造幣局理事長は、「世界造幣局長会議」(Mint Directors Conference)のメンバーとなっており、各国造幣局長との定例的な会議に出席し、同業者どうしの情報交換・意見交換を活発に行っている。また、各国造幣局との相互訪問を行うなどのネットワークもある。更に最近では外国貨幣の製造受注にも力を入れている。2017年初、ベルリンでの各国造幣局長との会議に先立ち、英国の王室造幣局を訪問することになった。これは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、記念貨幣製造など2012年ロンドン大会の経験を聴くこと、またまさに今、新1ポンド貨幣製造の真っ只中であり、さらには最近王室造幣局の工場・博物館見学コースが大変な人気を博しており、そうした状況をつぶさに見ることが目的であった。王室造幣局は、わが造幣局同様首都以外の地に本拠を置く。ロンドンから鉄道で約2時間、ウエールズの首都カーディフから更に車で30分弱、ラントリサントという町にある。ロンドンでは夕刻を過ごすのみの行程であるが、もしかしたらアレックスとの再会が果たせるかもしれないとふと気が付いた。ITの恩恵で30年前とは格段に異なり、コンタクトをとることは容易になっていた。メールを送ったところ直ぐにレスポンスがあり、アレックスはとても喜び、ロンドン到着の夕刻に食事を共にすることになった。ロンドンに着いて、パディントン駅近くの瀟洒なホテルにチェックインしたら、すっかり冬のヨーロッパらしい夕刻となった。アレックスがロビーに現れた。34年ぶりの再会の瞬間、繰り返し彼が例えていたモンテ・クリスト伯を凌ぐ歳月を超えての再会に感激の挨拶、そして握手、固く抱きしめ合った。私は熱いものが込み上げ、ちょっと眼が潤んでしまった。アレックスも同様のようであった。彼は私に「ヒャッキィ、歳は重ねたけど34年前とちっとも変わらないね。君の秘密を教えてくれよ。」などと話しながら、二人で近くの小さなレストランに向かった。イタリア料理とワインを賞味しながら、34年分の話は尽きなかった。「妻、娘もすっかり英国に落ち着いているよ。娘にはこの前、かつて君がしてくれた『ムジナ』の話をしたらマジに怖がってたよ。」などと互いの家族のことを語り合った。「今はEBRDも退職して、民間エコノミストとして研究成果を発表している。今度『ルーマニアにおける金、外貨準備、対外債務に関する考察』(注)と題した論文をルーマニア中銀のジャーナルに掲載するからコメントしてくれよ。」と言ってたくさんのお土産とともにドラフトを手渡された。「それにしても、本当に政変を乗り越えられて、よかったね。これもIMFでの研修のおかげだね。」と改めて喜び合う。「実は幸運なことに政変当時、対外交渉のためにイラクに出張中だった。だから政変の騒擾に巻き込まれずに済んだんだ。」というエピソードは初めて聞いた。「一度日本にも旅行に来たら。」と誘ったところ、「日本はあまりに遠い。長いフライトが苦手で、ロンドンからブカレストぐらいが限度なんだ。中東と東南アジアで乗り継げば行けるかも。」とアレックス。「わかったよ。それでは今度は新婚時代以来となるけど妻も連れて一緒にロンドンに遊びに来るよ。それからいつかあなたの祖国のブカレストも案内してほしいな。昨年外国貨幣の製造受注に際しジョージアに行ったが、その時に20ファイナンス 2017.10SPOT

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