ファイナンス 2017年10月号 Vol.53 No.7
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(文中、意見にわたる部分は筆者個人としての見解である。)前2回の記事において、グリーン・ファイナンスに関する基本的な論点及び、グリーン・ボンドについて紹介した。今回は、気候変動が企業財務・金融市場にもたらすリスク及び、こうしたリスクに対処しグリーン・ファイナンスを促進させていくための国際的な取組み及び日本における取組みについて紹介する。•気候変動の財務的リスク気候変動は、異常気象や自然災害の増加、海面上昇など、経済・社会に様々なリスク・損害をもたらしうるが、近年、その財務的(nancial)リスクへの注目が高まっている。この論点への関心を一躍高めたのは、2015年9月に、イングランド銀行総裁であるマーク・カーニー氏が、ロンドンの世界的な保険会社ロイズのイベントで行ったスピーチ*1だ。金融関係者を対象にしたスピーチにも関わらず、カーニー氏は気候変動を議題の中心に採り上げ、気候変動が金融の安定に対してもたらしうる3つのリスクについて語った。第1に物理的(physical)リスク。気候変動に起因する自然災害によって、保険会社に多額の支払いが生じたり、企業の資産に損失が生じうる。第2に責任(liability)リスク。気候変動に関連する損害について、企業等が法的な責任追及に直面する。そして第3に移行(transition)リスク。これは、低炭素社会への移行の過程で生じる技術革新や政策変更により、企業や金融機関の資産価値が大きな変動にさらされることだ。例えば、二酸化炭素排出削減の強化により、石油・石炭関連企業の資産や、それらへの投資の価値が減損する可能性がある。時代や環境の変化により、ある産業が栄えたり衰退したりすることは常にあるが、そうした変化が突然、非連続的に起きた場合、金融・経済に対する重大な影響をもたらすおそれがある。カーニー氏は、世界主要国の金融監督当局の会合である金融安定理事会(Financial Stability Board:FSB)の議長でもあり、世界の金融関係者に対して、気候変動のリスクに関する警鐘を鳴らしたのである。こうした問題意識を背景に、G20からFSBに、気候変動と金融市場との関係について検討が依頼された*2。それに応える形で、FSBは、後述するタスクフォースを設置した。コラム 炭素予算と座礁資産気候変動対策を考える上で、「炭素予算」(carbon budget)という概念がある。これは、世界の平均気温上昇を工業化以前と比較して2度を下回る水準に抑える「2度目標」を達成することを前提として、どの程度の量の二酸化炭素を排出することができるかを逆算したものだ。IPCC(気候変動に関する政Spot01グリーン・ファイナンスの最前線(第3回)OECD(経済協力開発機構)上級政策分析官  高田 英樹*1)“Breaking the tragedy of the horizon—climate change and nancial stability”, http://www.bankofengland.co.uk/publications/Pages/speeches/2015/844.aspx*2)G20コミュニケ(2015年4月16日・17日)*3)IPCC(2013) “Climate Change 2013:The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change”, https://www.ipcc.ch/pdf/assessment-report/ar5/wg1/WG1AR5_SPM_FINAL.pdf10ファイナンス 2017.10SPOT

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