ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
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巻頭言格差社会の中、絶望とともに生きる若者たち「この社会は平等じゃあない。学校で取れるはずの資格も金がないから取れない。だからやりたい職には就けない。自分たちの家族には助けてくれる親戚もない。裕福な人とは生きている世界が違います。」「この社会は自分たちのことなんて興味がないんですよ。この社会からぼくらは捨てられている。」こう語るのは、埼玉県で生活保護を受給する母子世帯の2人の高校生である。2011年春・・・さいたま市内で、高校の教師時代の教え子や大学で教える学生たち、地域で長年、ボランティア活動を一緒にした友人たちと「たまり場」と名付けた学び直しの「場」をつくった。初めに、利用者がいるだろうと思われた県立の通信制高校や高校を中退した若者たちがたむろしている公園などで、「無料で勉強を教えます」というチラシを配った。最初にやってきたのは通信制高校のA君だった。彼は、「本当にただですか?」と聞いてきた。建設現場で働いていたが、ひどい暴力を受けて辞め、いくつかの職を経て、工事現場の交通整理の警備職に就いて自活していた。ある時、「36時間連続勤務を言われたが、どうすれば?」と相談を受けたこともある。「断ればどうなるの?」「クビになります」。私はその時、悩みながら、「体に気を付けて。勤務が終わったら一緒に飯食いに行こうよ」としか言えなかったことを思い出す。あれから7年。「たまり場」は利用者も増え、毎週土曜日の午後、50人を超える若者が集まってくる。1年で2000人をはるかに超える。不登校の中高生、高校中退者、養護施設経験者、ひきこもり、障害(発達・知的)を抱えた若者、生活保護や外国人、最近までホームレスだった若者や刑務所経験のある若者もいる。「自分の学力は小学校の低学年しかない」と話す若者もいた。「たまり場」にやってくるような貧困層の若者たちがどんな気持ちを抱きながら生きているのか、社会が持つ想像力はあまりに乏しい。彼らを支える力を持つ家族や縁戚がないだけではない。生活を支える社会資源が身近にない若者なのである。貧困のつらさは、このような状況から脱するための意欲が育っていないことである。こんな状況の中に暮らすからこそ、貧困は連鎖するのである。貧困から自ら抜け出ることができる意欲を育てるのは教育の力である。貧困ライン以下で暮らす日本の子供たちは300万人を超える。「学び直し」が必要だが、日本社会には貧困層の若者たちの願いを満たす制度はない。しかし、本当に私たちのようなNPOのボランティアでしか救えないほど日本社会は貧しいのだろうか。政治や制度の隙間を、民間のボランティアが埋めることが常態になっていいはずがない。しかも、若者の貧困が少子化も招いている。日本は先進国でも最も急激な少子化カーブを歩んでいる。生産年齢人口と高齢人口の比は高度経済成長期の1970年には10対1だったが、今の20代の若者たちが高齢者の仲間入りをする2060年には1対1に、人口も8000万人にまで減少すると予測されている。子供の姿は見えず、働く人々がいない社会がやってくる。想像すると荒涼とした風景が見える。少子化は社会全体の貧困化をももたらすのである。NPO法人さいたまユースサポートネット代表青砥 恭ファイナンス 2017.81財務省広報誌「ファイナンス」はこちらからご覧いただけます。

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