ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
42/48

に説得するという形をとることがありました。第一段階では国連が20人くらい、向こうが30人くらいで、これでは交渉の埒があかないので、向こうはミロセビッチ、ムラディッチとカラジッチの3人だけ、こちらは明石とジャンビエの2人と、5人だけの交渉を提案してやることになりました。最後の段階では、3人のセルビア人の前で、私があなた方は国連の言うことを聞き、兵力を撤退することによって、セルビア人の誇りとする長い歴史が終わりになってしまわないように解決出来るのだからと、訥々と説得し彼らに迫りました。2月末にNATOの空爆開始のデッドラインが決まっていまして、最後の交渉がやっと終わり、私は空爆せずに済むという声明を用意し、それをNATO側も承知してくれ、発表することになりました。それから宿舎に帰ったらプレス関係者がいっぱいいました。あと30分でデッドラインが来るところで、もう発表してもいいだろうと思い、空爆はなしに済みそうだと発表したところ、それを聞いて喜ぶジャーナリストもいたし、残念だという顔をしている人もいました。その人達の顔を見ながら自分の部屋に帰り、強いウイスキーを一杯飲んで、またしても危機が避けられたと思い、グーグー寝てしまったことを覚えています。〈国際社会でサバイブする日本人〉▶神田 明石さんは、東洋大学のサム田淵教授に、日本人は積極的に海外に出て柔軟で多面的な思考を身に着けることが必要と仰っており、日本民族が生き延びるためにも大賛成です。しかし、実態は、日本の若者は益々、内向化、消極化し、学者を含め、留学は低迷するなど、他国が加速度的に国際化する中、ひとり後退しています。明石さんは国内外国人比率が1%と諸外国より低いため語学力が低いことを指摘しており、外国人をもっと受け入れるべきと考えますが、他方、国内の居心地がよくハングリー精神がなくなったことも大きいと思います。明石さんも日本は非常に恵まれている分、世界に出ていかなくてもやっていけるので内向きになってしまうと仰っていたと記憶します。英コックニーも米も印も星も南アもそれぞれユニークな訛りですし、勿論、英語など手段にすぎず、積極性と論理的に主張できるサブスタンスの方が大事です。海外の各界要人と話していると一番の違いは、明確な主張を歴史や哲学といった教養を交えて話せる日本人が圧倒的に少ないことです。日本人の特性だから仕方ないという人もいますが、新渡戸稲造先生をみるだけでも、それは間違いと思います。これはどうすれば改善できるでしょうか。▷明石 問題意識は神田さんと全く同じです。若い人や大学生の前で話をするとき、私は「他流試合のススメ」という題でやることがあります。日本国がぬるま湯的な心地よさを持っているし、少子化の結果、親が子供をあまり手放したくないという気持ちになってしまっています。かなり多くの若い人も、外に行ってまで危険にあい、苦労する必要はないと思い、外に出ることを喜ばないようになっていることを心配しています。そこで私は、大学生は就職を控えて外に行く気がしない人が増えているので、優秀な高校生に狙いを定めています。例えば群馬県には明石塾というのがあります。過去15年にわたって毎年15人位ずつ塾生が出ています。その卒業生のうち1割の20人ぐらいが外務省やJICAに入っています。15年塾長を務めたので、今はやめて、名誉塾長として年に1回ぐらい行くことにしています。また、毎年8月には、福岡県の宗像市で、次世代リーダー養成塾という、優秀で元気な高校生を約200人集め、2週間泊りがけで色々な人の話を聞かせ、また彼ら同士で話し合うことをやっています。私はこれを数年前から全て英語でやることにしました。中国や韓国からの若者も少しいます。私の1時間の話が終わると、必ず質問を受けるのですが、100人位の手が一挙に上がるのです。アグレッシブで元気で、しかもいい質問をします。マレーシアのマハティール元首相も、90歳を超えていますが、ここで日本の若者に会うのを楽しみに、わざわざ九州まで来るのです。日本の若者達は決して完璧な英語ではないけれども、よ38ファイナンス 2017.8連 載|超有識者場外ヒアリング

元のページ  ../index.html#42

このブックを見る