ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
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治指導が先にあって、OECDが専門的知見を発揮した例もある。昨年のG20杭州首脳会議の合意に基づき、OECDが奔走し、年末にG20を含む、33カ国が参加して発足した「鉄鋼過剰生産能力問題に関するグローバル・フォーラム」だ。市場歪曲的な政府等による支援措置の撤廃に向け、今後、情報共有から実効的な措置をとる段階に進む上で、鉄鋼や造船の分野でのOECDの経験の蓄積や客観中立性は引き続き重宝されるに違いない。このほか、「持続可能な開発目標(SDGs)」や気候変動パリ協定の着実な履行を国際機関が役割分担して支援すべく、OECDとしての「SDGs行動計画」を承認した。国連との意志疎通を一層密にするためにニューヨーク事務所の恒久化も検討されている。他者(特に、ライバル)との関わりにおいて「自画像」の輪郭や持ち味が少しずつ明らかになるというのも人間真理の一面であろう。2加盟拡大に向けた準備―『普遍的ではないが、グローバルなネットワークを目指して』(標語その3)閣僚理事会の三つ目の柱は、今後の加盟拡大に向けて準備を整えたことである。OECDは、今なぜ加盟拡大に逡巡しているのか。「新興国が参加しない国際政策協調や制度に意味があるのか」という問いかけに、国際経済ガバナンスの屋台骨を支える国連、世銀・IMF等がそれぞれの形で応えてきたのに対し、OECDはその独特の出自ゆえに、新興有力国の取り込みに「立ち遅れた」との反省と焦りがある。OECDは、1961年、欧米20カ国を原加盟国として発足したわけであるが、その後、自由、民主主義及び市場経済という基本的価値を共有しつつも、地理的にはアジア太平洋や中南米にも拡大し、経済発展の状況も異なる35カ国が加盟する実に多様性に富む機関となった(注)。もはや、名実ともにかつて揶揄されたような欧米の「金持クラブ」ではない。(注)1961年設立時の原加盟20カ国(英国、フランス、ドイツ、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、オーストリア、デンマーク、ギリシャ、アイスランド、アイルランド、イタリア、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、米国、カナダ)に加え、日本(64年)、フィンランド(69年)、豪(71年)、ニュージーランド(73年)、メキシコ(94年)、チェコ(95年)、ハンガリー、ポーランド、韓国(いずれも96年)、スロバキア(2000年)、チリ、スロベニア、イスラエル、エストニア(いずれも10年)及びラトビア(16年)が加盟した。現在、コロンビア、コスタリカ、リトアニアが加盟審査中にある。なお、EUは、OECDの正式メンバーではないため、理事会での投票権を有さないが、議論に参加し、決議案の修正等を提案することが出来る。加盟拡大のこれまでの経緯他方、それが世界経済の重心移動を取り込む戦略的思考の所産であったかといえば、むしろ、「善意」と「惰性」と「政治的取引」の結果、というのが実情である。上記(注)を御覧になれば一目瞭然だろう。ここに、賑やかにはなったが、軽くなった等身大の姿をもう一度見直そうとの機運が高まった。そもそも、一方には、加盟する側の思惑として、卓越した実証分析や加盟国の良き前例(グッド・プラクティス)に基づくOECDの質の高い基準や政策提言を国内改革のテコとして活用したい(しかも、WTOやIMFの課す義務に比べ拘束力が弱いので「使い勝手」が良いのだ。)、「中所得国の罠」を切り抜けたい、国家発展の一里塚としたいという切実な欲求がある。1964年(昭和39年)4月に日本が加盟した日の朝刊に「やっとおとなの仲間入り」、「手放しで喜べぬ、経済界に厳しい義務」といった題字が躍った高揚感を、旧ソ連のラトビア(昨年加盟)や激しい内戦を終結させたコロンビア(加盟審査中)等の国が現在進行形で経験している。そして、もう一方には、OECD側の狙い、すなわち、改革と自由化に邁進する政権の役に立ちたいという「善意」、そして、そのような同志を迎え入れることで国際社会での存在感を高めたいとの計算がある。これに加え、「惰性」というのは、EU新規加盟国は、希望すれば当然OECDへの加盟をEU全体として支持するという、依然として圧倒的多数派の欧州勢の了解を意味し、「取引」とは、そのEUと中南米が、各々のグループ内の候補を「抱き合わせ」で漸次加盟させてきたこと指す。ファイナンス 2017.8252017年閣僚理事会の概要と意義(後編) 〈戦略的岐路に立つOECD、グローバリズムの苦悩と挑戦〉SPOT

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