ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
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て、各締約国が選択する既存の租税条約について一度の手間で同時に実施することが可能となる。グローバル化の罪の典型と見られている、富の集中の問題の温床にメスを入れる政治的意義も大きい。また、法的拘束力のない規範を加入国の相互監視によって担保する従来のソフトロー方式とは異なり、当事国を法的に拘束する既存の条約(ハードロー)を基盤として、OECDがこれらに共通する改定を一度に行う装置として多数国間条約を作成し、各国政府に署名開放するという、変則的ではあるが、OECDの新たな国際法形成機能としても注目される。各種基準の「棚卸し」「グローバル・スタンダード・セッター」の機能向上の第二の成果として、閣僚理事会に間に合わせて、実に四半世紀ぶりに、すべての専門委員会が過去に策定し、現在も形式的に失効していない260件の各種基準の「棚卸し」を行った。新聞の見出しを飾る署名式に比べれば地味だが、OECDが世に送り出した各種基準の実施状況や有効性を定期的に総点検することは、大木の枝打ち作業にも似て、基準設定者としての持続力や再生力を保つ上で極めて重要な作業である。その結果、陳腐化ないし新しい基準に代替されるなどして今回廃止するものが32件、改定や更なる見直しが必要とされたものが80件、残りの148件は、基本的に維持が適当と判定された。また、当面の重点分野として、グローバル化の文脈で、経済主体の競争条件をより公平・均等にする観点(レベル・プレーイング・フィールド)から、特に、多国籍企業の途上国における労働搾取や環境破壊を念頭に「責任ある企業行動」、企業統治(コーポレート・ガバナンス)や競争政策などの分野で一層効果的なルールを作っていくこととした。この関連で、「棚卸し」とは別に、閣僚声明に、途上国におけるインフラの「質」を確保するための開発に係る国際基準を確立していくべしとの日本の主張が盛り込まれた。これは、世界的なインフラ需給の大きなギャップが存在する中、開発援助・投融資の供給側に新興ドナーが加わっている最近の情勢を踏まえ、競争条件の均等化、途上国側の財政能力の持続可能性、公共財としての開放性や利便性を確保するために国際社会が等しく従う基準が必要であるとの問題意識に基づく。他の国際機関・フォーラムとの連携強化第三に、OECDが、他の国際機関・フォーラムとの一層の協力を通じて、OECDの基準やノウハウを幅広く提供していくことを確認した。この背景には、最近のG20との協力の成功体験がある。G20 は常設機関を有さない。そこにOECDは活路を見いだした。トルコや中国等の新興国が議長を務めた近年、OECDは「事実上の事務局」として、文書作りや会議運営などの面で着実に実績を積み上げた。上記BEPSプロジェクトは、先行するOECDの業績がG20の政治的後押しを得て、非加盟国に基準を伝播・定着していったビジネスモデルである。逆に、G20の政2017年OECD閣僚理事会集合写真(6月7日、OECD本部)前列中央がグリア事務総長。向かって右上一人おいて薗浦健太郎外務副大臣。その右上に玉木林太郎事務次長。ⓒOECD/Hervé Cortinat24ファイナンス 2017.8SPOT

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