ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
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•グリーン・インフラ投資の課題以下、グリーン・インフラへの投資に関する主な課題と、それに対処する方策の例を挙げる。(1)まず、インフラという資産一般のもつ特徴として、長期の投資が必要となり、流動性が低い。そのため、株式や債券といった伝統的な金融商品に比べリスクが高く、投資家としては扱いにくい側面がある。また、インフラ投資に求められるノウハウや取引コストのため、プロジェクトのサイズ、投資家の資金共に、一定の規模が必要となる。これに対しては、インフラ投資ファンドや、プロジェクトの証券化を活用することにより、インフラ投資を、小口かつ流動性の高い金融資産に転換することが可能となる。次回以降紹介するグリーン・ボンドも、その有効な手法である。(2)また、グリーン・インフラ、例えば再生可能エネルギーについては、伝統的なインフラ(化石燃料)に比べて、コストが高く、リスクが大きいことが課題となってきた。これは典型的な外部経済の問題である。化石燃料は、二酸化炭素排出や大気汚染など、社会に負の影響を与えるにも関わらず、そのコストが費用に織り込まれておらず、むしろ補助金等により支援を受けている場合も多い。他方、グリーン・インフラが社会にもたらす便益を、事業者・投資家が私的に享受することができない。こうした「市場の失敗」を是正するためには、政策的な介入が求められる。化石燃料に対しては、「炭素の価格付け」(carbon pricing)によって、適正なコストを課すことが考えられる。その方法として、排出権取引制度や、炭素税があるが、技術的・政治的な課題があり、現状では未だ発展途上である。他方、グリーン・インフラを支援する方策として、補助金、税制優遇や、再生可能エネルギー発電の固定価格買取制度等がある。固定価格買取制度は日本でも2012年に導入され、再生可能エネルギー投資の増大に寄与しているが、適正な価格設定が課題となっている。また、こうした政策的支援については、安定性・透明性が重要である。長期にわたる採算性が見通せなければ、投資家が投資判断を行うことは難しいからだ。もっとも、再生可能エネルギーが高コストであるというのは、過去のものとなりつつある。近年、太陽光発電や風力発電の技術の成熟化によりコストは劇的に下がり、世界の多くの地域で、十分に化石燃料発電と競争可能になっている。再生可能エネルギーの発電容量は世界で急速に増加しており、2015年には、ついに累積発電容量が石炭を上回った*14。既に多くの機関投資家や、非エネルギー系の一般事業会社(例えばグーグル、ソフトバンク)もグリーン・インフラへの投資に乗り出しており、こうした流れは今後も加速していくことが予想される。(3)近年、機関投資家の中でも、ESG(Environment, Social, Governance)に配慮した投資が注目されている。ESGとは、環境や社会的責任への配慮、企業統治の観点から、投資先を選別していく考え方である。しかし、機関投資家は受託者責任(duciary duty)に基づき、受益者の財務的な収益を最大化する義務を負い、それがESGやグリーン投資を制約しているとの議論が根強くある。この点については、ESGは中長期的に財務的収益に影響するものであり、これを考慮することは受託者責任に反しないとの研究*15もなされており、そうした考え方を持つ投資家も増えている。しかし、この論点に関する法的・制度的な位置づけが不明確であることや、実務上、機関投資家は短期的に運用成績を上げるプレッシャーにさらされていることから、ESGが主流化しているとは言い難い*16。これに対しては、制度や指針等でESGの位置*14)IEA (2016) “Medium-Term Renewable Energy Market Report 2016”, http://www.iea.org/bookshop/734-Medium-Term_Renewable_Energy_Market_Report_2016*15)UNEP (2015), “Fiduciary Duty in the 21st Century”, http://www.unep.org/leadmin/documents/duciary_duty_21st_century.pdfファイナンス 2017.821グリーン・ファイナンスの最前線SPOT

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