ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
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間企業は動き出している。シンクタンク「Climate Policy Initiative」の試算*3によれば、2014年時点で、世界の気候変動対策ファイナンス3910億ドルのうち、62%が民間資金由来とされる。もちろん、民間企業は慈善事業を行っているわけではなく、ビジネスとしての観点から合理性がなければ投資しようとはしない。だが、民間企業の側からも、経営上のリスク、そしてチャンスの両方の側面から、資産・投資の「低炭素化」を進める動きが、急速に活発化しているのである。*3)Climate Policy Initiative (2015) “Global Landscape of Climate Finance 2015”, https://climatepolicyinitiative.org/publication/global-landscape-of-climate-nance-2015*4)日本では、政府文書をはじめとして、「地球温暖化」(global warming)という言葉が使われることが多いが、国際的には「気候変動」(climate change)という言葉の方がより広く用いられている。「気候変動」の語感には、既に起きつつある異常気象の増大など、より切迫したニュアンスが含まれているようにも思われる。*5)WMO (2017) “WMO Statement on the State of the Global Climate in 2016”, https://library.wmo.int/opac/doc_num.php?explnum_id=3414コラム 地球温暖化は本当に進行しているのか気候変動・地球温暖化*4の進行を私が直接実感したのは、OECDに赴任して最初の夏季休暇、スイスのツェルマットを訪れたときのことだ。下の写真1、2は、ヨーロッパ屈指の名峰マッターホルンである。いずれも私が、ほぼ同じ場所から撮影したものであるが、写真1は2005年8月、写真2はその丁度10年後の2015年8月のものだ。2005年の際には、真夏の8月であってもマッターホルンは雪に覆われていたが、10年後、雪は全く失われていた。これは衝撃的な体験であった。もちろん、気温は短期的な振幅があるし、雪も、たまたま多い年と少ない年があるが、スイス・アルプスの氷河が縮小していることはかねてより指摘されている。日本でも、多くの人が、夏の暑さが昔に比べて厳しくなっていると感じているのではないだろうか。実際、WMO(世界気象機関)*5によれば、2016年は史上最高の平均気温を記録し、工業化以前に比べ+1.1度の気温上昇となった。そして、過去最も暑かった17年のうち、実に16年までが、2001年以降に集中している。気候変動に懐疑的な論調も一部にはあるが、世界の圧倒的大多数の論調は、(1)地球温暖化は確実に進行していること、(2)化石燃料の使用等による人為的な温室効果ガス排出がそれに寄与していること、(3)したがって、温室効果ガス排出縮減に取り組む必要があること、を肯定している。そして、パリ協定の採択を通じ、世界のほぼ全ての国の政府が、その前提を共有することとなった。なお、米国のトランプ大統領は気候変動懐疑派として知られ、2017年6月1日、パリ協定から脱退する方針を表明したが、その際のスピーチでは、気候変動対策の必要性自体は否定していない。写真1写真2ファイナンス 2017.819グリーン・ファイナンスの最前線SPOT

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