ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
15/48

特別インタビュー 吉川 洋立正大学教授/財務省財務総合政策研究所名誉所長TFFの意義、今回の成果は?―TFF開催の意義をどのように考えるか?財務総合政策研究所がIMF、ADBIと連携して財政政策の重要な課題について、世界の最先端の研究者とアジアの財政当局の間で、継続的に議論してきたことは、評価できると考える。これは、実際に政策を立案・運営していく上で大きな意味を持つだろう。かつて、マクロ経済学は日本経済を理解し分析するための道具・眼鏡だったが、ここ30年ほどは、現実の経済に目を向けず経済学の世界の中だけで議論を行う「経済学学」に陥っていると私は感じている。そんな中で世界の最先端の研究者とアジアの財政当局との交流を継続することは、困難な政策の課題の解決に結びつくだけではなく、経済学の本来の姿を取り戻す上でも、意義があるのではないかと期待している。―今回のTFFの議論の全体の印象は、如何であったか?TFFでは、人口動態の変化、不確実性、包摂的成長への課題について、政策に寄り添った議論が交わされており、非常に有意義であったと考える。全体の論調としては、2008年のリーマンショックなどGFC(Global Financial Crisis)に対して、財政余力のあったアジア諸国がよく対応できたことを踏まえ、次の経済危機に備えて財政余力を確保すべきであるということであった。そのための政策としては、人口動態の予測誤差を織り込んだ慎重な社会保障制度の設計や、徴税能力の強化、燃料補助金の見直し等が挙げられていた。また、どこの国でも政治が近視眼的になる。目先の支持率や選挙に気を取られ長期的な視点で財政を考えることができない。言い換えれば、政治的な不確実性となる。よって、財政の問題を考えるときには、第三者機関が役割を果たすべきだとの議論もあった。―日本の少子高齢化について、どのように考えるか?TFFでも議論されたように、少子高齢化・人口減少は、日本にとって最大の問題であるといってもいい。所得、資産、健康などあらゆる面において、高齢者はバラつきが大きい。バラつき大きくなることは格差が広がることを意味し、その防波堤が社会保障と言える。高齢化は日本だけの問題ではなく、多くの国で社会保障の役割が高まっていると考える。―今後のTFFには、どんなことを期待しますか?経済政策は、それぞれの国が責任を持って行っていかなければならない。そのためには、経済学で得られた新しい知見に目を光らせておくことも必要だ。財務省においては、財務総合政策研究所がその役割を果たしている。しかし、実務を担う人は、新しい知見を自分の頭でろ過し、本当に役に立つ理論を見極めなければならない。世界的に権威があるという理由で鵜呑みにしてはいけない。地に足をつけて自分で考えるべきだ。そのためには、実務家が集まり議論を行う場となるTFFは貴重な存在であると考える。本フォーラムでは、高齢化と財政の持続可能性について、継続的に議論しており、今回は特に、「不確実性」と「包摂的成長」という観点から議論を行い、各国の経験や教訓を参加者間で共有した。税収の確保や政府機関の質の向上等への取り組みや、限られたリソースのもと、経済成長を実現し、格差を是正し、包摂的な成長を実現するための政策が持続的に実施されることが非常に重要。社会の変化に対応できるよう、賢明な制度設計制度設計や財政運営が必要であるとの教訓が共有された。最後に[TFF担当者](左から)三ッ本晃代・鶴岡将司・藤平雅之・山崎丈史・山田浩介ファイナンス 2017.811PRI×FAD×ADBITokyo Fiscal Forum 2017を開催特集

元のページ  ../index.html#15

このブックを見る