ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
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吉川洋財務省財務総合政策研究所名誉所長が閉会挨拶本フォーラムは不確実性下における人口動態、格差、包括的な成長に焦点を当てた会議であった。不確実性は常に我々と共にある。財政運営の不確実性の意味合いや影響はまだ明確に全て示されていないが、暫定的結論としては、非常に大きな不確実性があるため賢明かつ慎重に見ていき、管理運営をすることが大事だろう。自然災害であれ次の危機に備え、財政の健全度を測る事が非常に重要だ。しかしながら財政形成は政治から切り離すことが出来ず、やはり言うは易く行うは難しである。財政規則を立ち上げてやっていくこと、政治から独立した形で設置することは、政治的問題リスク減少に効果的だろう。問題解決には、セオリーだけでは不十分で国毎のケーススタディが必要。その重要な役割を果たすのが「Tokyo Fiscal Forum」である。第三回目となる今回も互いに多くを学び合うことができたと考える。アジアで成長の著しい東南アジアや南アジアでは、道路・鉄道などのインフラ投資が不足しており、渋滞により、通勤・仕事上の移動・物流など、膨大な時間を要しており、時間ロスが大きい。渋滞は、排出ガスの増大にもつながる。膨大なインフラ需要に民間の資金を導入しようとするPPP(Public Private Partnership)が推進されているが、インドなどでは、失敗の連続である。その理由は、インフラ投資からの収益率が低いためである。ADBIは、インフラ投資による周りの地域への経済効果を、税収がどの程度増加したかを計測する方法を生み出した。インフラによる周辺開発の税収増加が、インフラ投資の民間による資金提供者に還元されれば、収益率も毎年増大し、もっと民間資金をインフラ建設に導入することが出来る。次に、インフラが整備されても、地域の中小企業が生産を増やし、農家の生産物を販売できなければ、持続的な成長につながらない。ビッグデータを分析することによって、中小企業の格付けをすることが出来るようになった。日本では、CRD(Credit Risk Database)による中小企業のデータ分析が実施され、タイのNCB (National Credit Database)を用いた中小企業の格付けも可能となっている。また、アジアでの預貯金が中心であり、なかなかリスクマネーの提供が難しい。「ふるさと投資ファンド」など、新しい取り組みが、ベトナム・カンボジア・モンゴルで進んでおり、新規開業企業にも資金提供ができるよう、アジア各国での展開を進めている。その他、環境問題のための地域資金提供、金融経済教育、都市の住宅インフラ整備など、さまざまな研究をADBIでは進めている。一例として、ADB本部と一緒にカンボジアの預金保険制度の構築と保険料率の望ましい値の導出も進めている。ADBIでは、アジアの持続的な成長が継続され、所得格差が拡大しないよう、全ての国民に成長の果実がいきわたるように、研究成果が各国の実際の政策として進められるよう、研究を重ねている。(文責:吉野直行)ADBIによるアジアの持続的成長のための研究Column2ファイナンス 2017.89PRI×FAD×ADBITokyo Fiscal Forum 2017を開催特集

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