ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
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セッション1 不確実性の下における長期的な 財政政策の課題Donald Marron氏は、米国の経済政策に携わっていた頃は、不確実性の存在のために、将来どころか現在のリアルタイムでの状況把握も困難だったことを紹介。また、財政政策の中にも様々な不確実性が含有されている。財政における不確実性分析では、経済状況が変化した時にどういう変化が生まれるのかを見ており、議会でも予算策定時黄金律を用い財政政策の感度、シンプルなシナリオを見るのは有益であることを指摘した。Sarah Harper氏は平均余命の伸長についてデータを紹介した後、年齢に関連した病気を絶滅できずとも発生を遅らせた場合、平均余命にどのような影響があるのか、科学医療の集中ケアなくどのくらい余命があるのか、は重要な問いであると指摘した。Jay Bhattacharya氏は長寿国かどうかではなく、健康高齢者の数によって政策は変わる。将来予測に当たっては、年齢や性別だけでなく、国民の健康状態を予測し、将来の高齢者は現在の高齢者より健康であるのか否かに注目することが非常に重要であると指摘した。Junhong Chang氏はアセアン+3諸国は未だ追い上げ状態で財政政策の課題は重く2050年には中国、韓国、タイも日本同様の課題を抱えるとされ包括的な政策ミックスが必要とした。セッション2 政治的な不確実性及び人口動態の変化の下における財政政策Sanjeev Gupta氏は政府の分配、安定化、再分配という主機能は、政治的性質を持ち合わせていることを説明。選挙前は賃金が高く、選挙間近では公共消費も増大し、多くの国で公共投資成長は選挙28か月前にピークに達する。また、政治が財政政策の策定と成果に重大な影響を及ぼし選挙や政治的分断も大きな影響がある一方で、イデオロギーの影響はあまり大きくないとした。Vincenzo Galasso氏は、年金改革は政治的側面と結び付いており、年金は多くの高齢者にとって唯一の収入源なため、政治家は選挙で当選するため、年金制度改革には手を付けずにおこうとすると指摘した。小西秀樹氏は社会保障の財源には賃金税、政府補助金、投資等その他の収入があり、内訳は国毎に異なる。消費税が社会保護サービスに不可欠である国とそうでない国があり、政治経済観点で興味深いと説明した。Mukul Asher氏は比較的平均年齢の若い国インドでも高齢化傾向がみられ、急峻に高齢化が進み政府も医療年金対応が必要だと説明。中国ではパラメーター改革で、全国レベルの社会保障基金、国営企業からの配当、投資収益が指摘されているが、移行期における費用がより重要であると指摘した。セッションの概要■司会Sanjeev GuptaIMF財政局次長■発表者Donald MarronSarah HarperJay BhattacharyaJunhong Changアーバン・インスティテュート経済政策局長オックスフォード大学教授スタンフォード大学教授ASEAN+3 マクロ経済リサーチオフィス(AMRO)所長■討論者Peter MorganADBIシニア・コンサルタント■司会Odd Per BrekkIMF アジア太平洋局次長■発表者Sanjeev GuptaVincenzo Galasso小西秀樹Mukul AsherIMF財政局次長ボッコーニ大学教授早稲田大学教授シンガポール国立大学教授■討論者Qiangwu Zhou中国財政部国際財経センター主任6ファイナンス 2017.8

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