ファイナンス 2017年6月号 Vol.53 No.3
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で、現在策定中のADBの新長期戦略「ストラテジー2030」について述べ、インフラ開発支援(高度技術のインフラ・プロジェクトへの導入促進含む)、保健・教育分野といった社会セクター支援、ジェンダー対応、民間部門業務の強化、そしてそれらの活動を実現するためのADBの組織強化、を今後のADBの優先事項として取り組んでいくとの方向性を示した。最後に、皇太子殿下よりお言葉を賜り、殿下は、本年次総会のテーマ「ともにひらく、アジアの未来」について触れつつ、「世界から横浜にお集まりになられた参加者が英知を結集して諸課題の克服に取り組み、アジアの未来をともに切り開くことを願います」との期待を述べられた。ADB横浜総会の初日である5月4日、総会開催国自らがテーマを選定して政策メッセージを発信する「開催国主催セミナー」を開催。近年日本が重視している開発課題である保健分野を取り上げ、高齢化社会を迎えるアジアにおけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC※1)の推進をテーマに議論した。400名収容の会場が満席となる中、木原財務副大臣、JICA北岡理事長、ADB中尾総裁が出席のもと、上記テーマについて活発な意見交換が行われた。冒頭、木原副大臣が公衆衛生危機への対応力の強化、危機への予防・備えにも資するUHCの重要性について言及し、日本がこれまでの知見・経験を活かしてこうした保健分野の課題に対して主導的に取り組んでいく決意を述べた。また、中尾総裁は、UHCを推進していく上での鍵となる原則(包摂性、持続性、技術革新、民間の参画、マルチセクター・アプローチ等)を強調。北岡理事長は、伊能忠敬(55歳から17年かけて日本全土を測量し、世界最先端の地図を作成)の例を挙げ、活力ある高齢化社会の可能性について言及した。その後、ADB・JICAが高齢化対応・保健分野での協力を促進するため、木原副大臣立会いのもと、中尾総裁と北岡理事長による覚書(MOU※2)の署名が行われた。続いて、日本政府、JICA、ADB、タイ政府、WHO、有識者によるパネルディスカッションが行われ、「アジア健康構想」を含む日本の保健分野の取組み、アジアが抱える課題と今後の取組みの方向性、持続的なUHCのための財政当局の役割などについて議論した。今回のセミナー及びMOU締結を新たな出発点として、JICAやADBをはじめとする各機関が現場レベルで連携し、高齢化を迎えるアジア各国の保健システム強化に向けた取組みを推進するよう、財務省としても積極的に協力していきたい。TOPICS開催国主催セミナー※1 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)全ての人々が、基礎的な保健医療サービスを、必要な時に、負担可能な費用で享受できる状態。※2 JICAとADBによる保健分野での戦略的パートナーシップ「保健セキュリティの強化とUHCの推進に向けたMOU」1.目的:JICAとADBが、●公衆衛生危機への備え ●対応能力の向上を通じた保健セキュリティの強化 ●高齢化への対処を含むUHCの推進に係る協力を促進2.連携内容:①保健分野における情報及び知見の共有②人材交流、③政策提言や人材育成等に係る技術協力の連携/共同実施④保健分野及び保健関連のインフラ整備(上下水道等)に係る協調融資(保健分野の支援戦略の議論や連携の進捗状況の確認を行うためのハイレベル年次協議を開催)【プレスリリース】●JICA:https://www.jica.go.jp/press/2017/20170508_02.html●ADB:https://www.adb.org/ja/news/adb-jica-sign-mou-strengthen-health-security-aging-asia-pacic (和文)https://www.adb.org/news/adb-jica-sign-mou-strengthen-health-security-aging-asia-pacic (英文)国際局開発政策課長 三村淳、同課開発政策調整室長 増原剛輝、同課課長補佐 松野下稔、同課環境調整第二係 桑路和幸MOU署名後握手する北岡理事長(左)、木原財務副大臣(中央)、中尾総裁(右)アジアの持続的発展に向けた高齢化社会への対応: 保健システムの強化とユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進ファイナンス 2017.65 第50回 アジア開発銀行(ADB)年次総会を横浜で開催特集

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