ファイナンス 2017年6月号 Vol.53 No.3
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また、日本の取組みとして、①質の高いインフラ整備を推進するため、ADBが新たに設立する高度技術導入のための信託基金に対し、2年間で4,000万ドルを拠出すること、②日本の知見・経験を活用して高齢化などの課題への対応を支援するためADBとJICAが保健分野の協力促進に係る連携枠組みに合意したこと、などを世界に発信した。続いて中尾総裁が演説を行い、ADBの過去50年間の歴史を振り返り、ADBの功績として、①高い信用力を築くことで国際資本市場からADBが民間資金を動員し、その資金を財源に途上加盟国の支援を実施してきたこと、②各国政府との対話や政策支援融資を通じて、健全なマクロ経済政策や開放的な貿易・投資体制といった優れた政策の導入を促進してきたこと、③地域協力体制の構築に貢献してきたこと、などを挙げた。その上●アジア・太平洋地域は、過去50年間、目覚ましい経済成長と貧困削減を実現。しかし、未だに残る貧困者層、自然災害やパンデミック、高齢化等、様々な課題に直面。●こうした課題に対応するため、「包摂的かつ持続可能な経済成長の実現」と「様々な危機に対する強靭性の強化」という二つの基本理念の下、インフラ、保健、防災、地域金融協力等の分野における支援が重要。1インフラ整備◆経済発展に伴いインフラへのニーズは量・質ともに増大。◆ADBには、引き続きインフラ整備を推進するとともに、民間資金の一層の動員やインフラの質を高める取り組みの継続を求める。◆日本は、これまで、ADBと連携し、アジアにおける質の高いインフラ整備の推進に取り組んできた。こうした連携を一段と強化するため、ADBが新たに設立する高度技術導入のための信託基金に対し2年間で40百万ドルの拠出を表明。2保健システム強化◆アジアでは、鳥インフルエンザをはじめとするパンデミックの頻発や急速に進行する高齢化に伴う高齢者介護へのニーズの高まり等の健康課題に直面。◆ADBには、総合的な開発機関として、こうした社会課題について知見を一層強化し貢献することを期待。◆日本は、超高齢社会を迎える中で培った知見・経験を活用し、アジアにおける保健分野の課題への対応を支援する考え。本総会では、ADBとJICAの間で、これらの分野での協力を促進するための連携枠組みに合意。3防災◆アジアは台風、洪水、地震等の多発地域。気候変動の進行に伴い、こうしたリスクが一層深刻になることが懸念。◆ADBには、気候変動対策に一層注力することを求めるとともに、災害発生後の復興や災害に強いまちづくり等への支援強化を期待。◆日本は、災害に強い質の高いインフラ整備や「東南アジア災害リスク保険ファシリティ」設立に向けた取組み等を通じ、一層の貢献を果たしていく考え。4地域金融協力◆アジア経済は、国際的な資本フローに起因するリスクに直面。◆ADBには、政策対話や融資を通じた構造改革支援や、他の国際金融機関との協調の下での経済危機対応を通じ、加盟国経済の強靭性強化に貢献することを期待。◆日本は、CMIMの一層の強化や、ABMI等による現地通貨使用拡大の促進、二国間通貨スワップ取極(BSA)の新提案を通じ、アジア域内経済の強靭性を更に強化していく。【ADBの今後の業務の方向性】●引き続きインフラ・プロジェクト支援を中心に行いつつも、保健等の分野における、知識の共有や改革支援のための融資にも一層力を入れることを期待。●ADBの貴重な資源を有効に活用する観点から、原則としては、より貧しい国を重点的に支援すべき。●増加している上位中所得国(UMICs)との関与については、知識面での協力や環境などの外部性・スピルオーバーのある分野への支援を中心に、ADBがUMICsと質・量ともに適度な関与を行うことが重要。参 考麻生副総理による議長国演説の要旨4ファイナンス 2017.6

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