ファイナンス 2017年6月号 Vol.53 No.3
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巻頭言人と人が承認し合い、共感するその入り口に“お笑い”があるもっと人と触れ合い肌で感じなければならない―。そんな思いを抱いたのは、社長に就任してしばらく経った頃です。新幹線で移動中のこと、車窓から街並みは見えるのに、その場所でどんな人が、どんなふうに暮らしているのかさっぱりイメージできなくなっていたのです。東京で忙しく暮らしているうちに、感覚のバランスが崩れてしまったのでしょう。それは私だけでなく、社員も同じではないかと考えました。そこで始めたのが地域との交流です。沖縄の「島ぜんぶでおーきな祭(沖縄国際映画祭)」、芸人と社員が地方の街に居住して活動する「あなたの街に住みますプロジェクト」のような活動を通じて、芸人や社員が地元の人と交流し、地域の心や悩みを肌で感じることができます。そうすれば、東京で働いても、テレビ局のスタジオにこもっても、会社全体のバランスがとれるのではないかと思います。こうした「交流」は、日本の未来を考えるためにも意義があると考えています。最近は、IoT(すべてのモノがインターネットでつながる)時代とも言われています。しかし、技術を駆使したスマートシティが開発されようと、ロボットやAIが普及しようと、人と人の根源的なつながりは変わりません。承認したりされたり、共感することが重要なのです。それが自然と生まれる社会が実現できれば、高齢化に向けロボットが進化しても明るい未来を作ることができると思います。その入り口は「笑顔で向き合うこと」ではないでしょうか。だとすれば、私どもが果たせる役割もあります。さまざまなイベントを通じてそれを実現したいと考えているのです。イベントは、高齢者と若者が通じ合う場にもなります。私自身もそうですが、年を重ねるほど平凡がありがたくなります。素晴らしいことではありますが、それだけでは日本の文明は弱くなり国力の低下にもつながるでしょう。日本が元気でいるためには、若者がチャレンジしやすい社会であることが大事です。一方で高齢者は、戦後復興から努力してきたことをもっと若者に伝えなければなりません。そのためにも高齢者と若者が同じイベントに参加し、共感しあうことが必要だと思うのです。新たなチャレンジとして、沖縄にエンターテインメントの専門学校を準備しています。漫画、CGアニメ、ダンスを教える予定です。いずれも勉強するのに、ほとんどお金がかかりません。漫画なら紙とペンさえあればできます。エリート教育も必要ですが、吉本興業はそこからこぼれた子たちの集まり。貧しい人も、勉強嫌いな人も、この学校で生活できるネタを身に着けられればと考えています。学校の1階はこども食堂にする予定です。「今日はカレーだから、とりあえず一緒にご飯食べよう」とこどもに呼びかけ「自分の食べたものは洗って棚にしまいや」と声をかけながら、いろいろな場所で食事・学び・遊びのコミュニティを作ることができたらうれしいですね。地球のため人類のためという意味では、今年から国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)を支援する活動を本格化しました。1912年創立以来105年が経ち、吉本興業の次の100年を考えた時、経済力とともにソフトパワーが役立つ空気を感じました。人の根源的な部分を見つめ、笑いを通じて交流し、問題に触れ考えていく。吉本興業の芸人や社員の一人一人が、日本のため世界のためにできることを考えて欲しいと願っております。吉本興業株式会社 代表取締役社長大﨑 洋ファイナンス 2017.61財務省広報誌「ファイナンス」はこちらからご覧いただけます。

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