ファイナンス 2017年6月号 Vol.53 No.3
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夜でないと大勢いる動物に負けるので、夜狩りに出ました。昼間寝て、夜出て行って、朝になるまでに帰ってきた夜行性だったのです。他方、女性はその洞窟の前で少し洗濯をしていたりしていたので、葉っぱの色といちごの色の見分けがついたのです。だからこそ、三原色を先に手に入れたのは女性なのです。男性に色盲が多いのは、緑と赤がわからない人がいるわけなのですが、これは色彩のない夜中働いていたことによる遺伝子のせいなのでしょう。▶神田 『群れない生き方』において先生は文字通りそのような姿勢を展開されています。共感することが多く、今や既存秩序が機能不全を惹起して崩壊していく乱世、環境変化に適応する努力をすべきで、馴れ合い、思考停止の現状維持はかえってリスクが高いと思います。閉鎖的で排他的なために閉塞感を再生産する悲劇はビジネス、学界、政界どこにも蔓延しています。特に、日本語障壁や寡占市場に守られた領域では、生き残りをかけた戦略ではなく内向的な人事派閥抗争に明け暮れ、蛸壺利益共同体まるごと歴史の藻屑として沈んでいきかねない状況も見られます。外との流動性、中の多様性が欠如しているところは、実は多様かつ開放的で貪欲に大陸を吸収して独自の文明を築いてきた日本の伝統とも異なるようにもみえますが、先生は現代日本社会をどう見ておられますか。また、和をもって尊しとなすは当然に素晴らしいことですが、これが偽善と指摘されるのも残念です。私は80か国近く回りましたが、現代日本は、障害者といった弱者や客人、困っている人に実は冷淡で、異質なものを共通の敵にして結束しようとする態度が目立つ国のひとつに感じることがあります。これはもともと寛大さ、寛容さを誇りとした日本民族の伝統ではなく、特殊な国際環境と人口オーナス等のもと、右肩上がりが約束され、リスクアバースに処世術の要領で成功できた一時代の副産物だともいわれます。先生は日本人の本性をどのように観念されていますか。▷絹谷 おっしゃる通りだと思いますね。確かに、日本人は、勤勉であるし清潔であるし、時間も大切にしている。教育水準も整っている。あらゆる良いと思われることが、世界でも冠たる程だと思います。ところが、そういうことに気を遣うあまり、人間として、もっと胸襟を開いて、もっと和気あいあいと楽しむとか、指示待ちしないで、何か楽しいことを自主的にやっていくといったことができない傾向もあります。日本の場合は、イクラ状態というより、筋子状態なのですね。筋子の状態では非常に磨かれていると思います。日本は、徳川300年、とても平和でしたが、鎖国をして、孤立主義を選び、また、内なる平和を保つために、むこう三軒両隣、見張り組等のシステムを導入したのです。その結果、非常に制御しやすい国民に育ったと思うのですけども、反面、それがあまり過度になると、自主的に動いたり、判断するといったことができなくなり、お上から何でもしてもらえるのだ、だから自分もしてもらうのだというその受け身の考え方になったのではないかなと考えています。私がこうして色彩を沢山使って絵を描くのは、それぞれの色をもってほしいと願っているからです。紫色の人もいれば、黄色の人も、赤い人もいるというような、多彩な動きをしてほしいと思うのです。例えば、わびさびというのも確かに良いことなのですが、ぬれ落ち葉になってはいけないのだなと思います。唇に歌を、ちょっと土日には色彩を纏った服を着てもらいたいなという気持ちがあります。奈良の都も、匂うが如く盛りだった頃は、赤い柱、はためく旗、そして外国の人で満ち溢れ、松本清張さんに言わせると、今奈良の町に来ている外国人と同じだけの人が奈良の町を歩いていたそうです。本当に開放されていたのですね。そして、あの七福神でさえ、日本人は、鯛をもって竿をもっている方(恵比須神)だけで、他の6人は外国の方なのです。日本人は、海の外から色々な知恵などを吸収して、地震とか台風とかのある艱難辛苦のこの土地で、よくやってきたと思います。ですから、これからは、グローバル化して、世34ファイナンス 2017.6連 載|超有識者場外ヒアリング

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