ファイナンス 2017年6月号 Vol.53 No.3
35/44

で、「子供 夢・アート・アカデミー」の場合は、その後自衛官になる子供がいるかもしれないし、財務省の主計官になる子供がいるかもしれないし、色々な可能性のある子供たちがいるわけです。その子供たちに絵を描いたあの時は楽しかったなあと、今後色々と苦しいことも出てくるでしょうけども、絵の世界、こんな世界があるのだってことを小さい子供たちに教えあげればいいと思うのです。例えば、勉強ができなかったり、いじめ等があったりすると、ちょっと辛い気持ちになる子供もいるのだけども、それがこつこつとひとりで絵を描いている世界に入れば、別段皆と仲良くしなくても、楽しみがあるのだよっていうことが植えつけられればいいかなと思います。僕が教えにいくと学校の先生が嫉妬することがあります。体育館にいる時に僕が入ってくると、途端に、何も言っていないのに、その場の雰囲気がぱっと緩むのですよ。ところが先生達が入ってくる時は皆難しい顔をしています。どこが違うかというと、先生はしかめ面して入ってくますが、僕が入って行く時は、入る前にニコニコっていう顔をして、入っていき、目と目が合う子供たちにニコニコニコってするのです。それだけなのです。そして、誰でも描けるという絵を描かすのです。まず、赤い色の中に、少し緑を入れなさいといって教える時に、「君たち、お善哉作る時に砂糖の外に何入れるの」と聞きます。そうすると、お餅、とか色々な答えが出ますが、塩、っていう生徒も中にはいます。「甘いものを作る時に塩をちょっと入れるでしょ。チョコレートにも塩がちょっと入っているでしょ」と説明し、今度は「カレーライスを作る時に、何入れる」ってききます。肉、といった答えが出ますが、「ハウス何とかっていうだろう。」と私が問いかけると、バーモントカレー、というのが出てくるので、「そう、それは何が入っている」ってきくと、「りんごとはちみつ」と返ってくる。そこで、「辛いものを食べる時に反対のものをちょっと入れるでしょ、甘いものを作る時に反対のものちょっと入れるでしょ。これが、絵の具を混ぜる時のコツなのだよ」と言って、僕のヨーロッパで勉強してきた秘宝を教えるわけです。「それじゃあ、その色作ってみよう」といって、皆で作って、「そんじゃどんな色作ったか、紙につけてみてみよう」と問いかける。「チューブから出したままの生の赤をつけたら、ここにいるみなさんの赤が全部同じ色になるでしょ。そうじゃなくて、自分だけの美味しい赤を作ってくれ、黄色をいれてもいい、でもちょっと反対の緑も入れようね。でも同じ分量入れたらダメだよ、おんなじ分量入れたら甘いのか辛いのかわからなくなるでしょう」という。だから少しだけ、混ぜる練習をさせるのです。それで、実際に混ぜてみると、確かに色が、生の色ではなくって、本当に味わい深い上品な赤になるのです。見る勉強、観察する勉強もします。「男の子こっちに並んで、女の子こっちに並んでにらめっこしよう。前の人の顔が下駄型なのか、狐型なのか、真ん丸なのか1分間のうちに覚えなさい。書き出したら顔を見られないからね」と言ってにらめっこします。「狐の目か狸の目か、相手の特徴をとにかくみなさい」と教えます。そして、「前の人の顔を線でそこに描きなさい」とやると、誰でも、もの凄く面白い絵ができるわけです。線を描いてから普通色塗るわけなのですが、これはそうではない。ぐちゃぐちゃになっている色の中に線で絵を描く。描き終えたら、「これはピカソだ」などと誉めまくります。そういうことをすると、どんな下手な人でもね、絵になるのです。色を先描くだけで絵になるのです。だから発想の転換というものも教えているわけです。▶神田 大沼暎夫さんが先生を芸大に教員として呼び戻されたと仰っています。最初に日大美術学部で教鞭を取られたと思いますが、先生の授業手法に関心があります。ご自身の先生方は流石に芸術の大家、個性豊かで、何でも「いいですね」だったり、何でも「それ、つまらんわ」だったり、意味不明の指導だったり、無言だったり、それぞれだったそうですが、先生ご自身はどのような指導をされているのでしょうか。ファイナンス 2017.631超有識者場外ヒアリング63連 載|超有識者場外ヒアリング

元のページ  ../index.html#35

このブックを見る