ファイナンス 2017年6月号 Vol.53 No.3
34/44

私達は、1+1は3とか書いているいわば規格外の絵をとったとしますね。すると、そういう絵も山ほどあるために、不公平感がでてくるので、勢い、上手な絵を基準にしがちなのです。上手な絵の中に、ある良さ、他にはない良さが入っているものを次の段階ではセレクトしていくという風な形になり、天才を入選させることは難しくなります。ところが、絹谷賞のような選抜賞では、評論家の先生とか新聞記者の方たちが、春のセンバツ高校野球と同じように、その前年の展覧会を見て、この人を推薦したいということで応募してくるわけで、公募の時のように、自分が出したいから出せるという形式じゃないものですから、その1点の絵だけに対して評価するというものでもないのです。展覧会の様子を見て先生方が、推薦することになりますので、最初からレベルが高く、そういう中での戦いになります。そういった時に、私が選ぶ場合は、パッと見て誰が見てもこの絵が一等だというのがバーンとくるときがあるのですね。それがやはり、時代をとらえていたり、あるいは、時代をこえていたり、非常に丹念に描かれているとか、その人の性格まで、あらゆる要素が、絵を見た3分くらいで全部わかるわけです。そういうのがでてきた時は選ぶ立場としては、非常に楽なのです。ところが、そういう天才的な絵がなかった場合は苦労しますね。そういう場合は、運もあるでしょうし、時の勢いっていうのもある。絹谷賞の場合には、私がいなくても入るということですし、私がいない方が入るということもあります。そういうことで、絹谷賞は、他力本願というか、いろいろな方の感性で時代をとらえてほしいという風に考えております。▶神田 長野五輪公式ポスターになった先生の『銀嶺の女神』は当時の権力者、サラマンチIOC会長に売ってほしいといわれたのにお断りになったことで有名です。さて、クーベルタン男爵がオリンピックの趣旨としてスポーツと芸術の祭典を掲げたことを先生も紹介されていますが、実際、1912年のストックホルムオリンピックから1948年のロンドンオリンピックまで芸術競技が採用され、日本人もメダルを取っていました。インバウンド旅行のリピーターを増やすためにも、2020東京はスポーツを軸にしつつも文化芸術、ひいては日本人や日本の自然まで知って頂きたいのですが、まだ、更なる広がりの余地があると思います。芸術作品があるところには原爆が落ちないと仰いましたが、私も、芸術文化で尊敬されることがこの上ない安全保障とも考えています。先生の2020文化戦略を御開陳下さい。▷絹谷 来年、パリでジャパネスク展をやるそうですが、日本でこそやるべきではと思います。それとは別にオリンピックの年には、東京で国際展があっていいと思います。やはり、折角日本にあらゆる国の報道陣がきている時ですので、食の面同様、わが国の良さを世界に知らしめていくことが私たちのリスクマネジメントになると思います。我々は、どうしても、自分の宣伝をするのが恥ずかしいというところがあって、目立たないようにしようという精神があるのですが、もう少し国として、日本の作家をどんどん日当たりのよいところに出して頂きたいという思いがします。なお、オリンピックとは別なのですが、8月22日から10月15日まで京都国立近代美術館で個展をやらせて頂きます。そして、来年は北京でも個展を計画しています。▶神田 先生が尽力されている「子供 夢・アート・アカデミー」に感謝しております。特に、被災地児童に元気と将来の糧を与えてくださっていると思います。絵画を通じて、イメージが形になること、反対の色や意見を取り入れながら個性を育み、調和を尊重することを学べることは貴重な体験です。この活動の手応えと将来の展望や期待についてお聞かせください。▷絹谷 日本を支えていくのは、我々の同級生・同窓ではなくて、子供達だと思うのですね。もっと言えば、まだ生まれていない子供たちかもしれません。私は美術学校でずっと教えていますが、これはみんな同業者を教えているわけです。一方30ファイナンス 2017.6連 載|超有識者場外ヒアリング

元のページ  ../index.html#34

このブックを見る