ファイナンス 2017年6月号 Vol.53 No.3
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で、足下のリスクとしては、米国の経済政策に関する不確実性、更に中期的には、潜在成長率の引上げ、ぜい弱性解消、包摂性の実現など、構造的な課題が残っていることを提起した。従って、各国が慢心することなく、金融、財政及び構造政策を個別にまた総合的に用いて、引き続き、各々の課題に対処すべきであることを指摘した。また、格差問題への対応と称して一部に見られる内向きな政策に関連し、分配ありきではなく、経済成長を達成し分配の原資を確保しなければ持続可能ではないこと、包摂性の実現と称して自由貿易に逆行すべきではないこと、自由貿易は、多くの国において、経済の繁栄に寄与してきたことを述べた。更に、世界的不均衡(グローバル・インバランス)を巡る議論に関しては、対外収支の単なる不均衡と、持続不可能な「過度な」不均衡とを明確に区別する必要があり、各国の経済構造や景気循環等を反映する形で経常赤字国と黒字国が存在すること自体に問題はないことを主張した。公表されたコミュニケにおいては、世界経済の回復はゆっくりと続いており、成長は2018年にかけてわずかながら上向くと予想する一方で、生産性の減速や地政学的不確実性等を背景に見通しは依然として低調であり、不確実性と下方リスクは高い水準にあるとされ、「全ての政策手段-金融及び財政政策、並びに構造改革-を個別にまた総合的に用いる」こととされた。また、「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得ることを認識する」等、我が国の主張を反映した記述が盛り込まれた。またコミュニケは、IMFの業務に関して、資本フローの自由化及び管理についての各国の経験の検証を通じて、同分野における政策助言の整合性を確保することや、IMFとチェンマイ・イニシアティブ(CMIM)との合同テストラン等を通じて、地域金融取極との協力を強化することを求めた。さらに、グローバル化や技術革新の影響、労働分配率の低下の原因分析など、一部の国において拡大する経済格差の背後にある要因を特定するためのIMFにおける作業が歓迎された。3世銀・IMF合同開発委員会(2017年4月22日、ワシントンD.C.)4月22日午後には、第95回世銀・IMF合同開発委員会が行われ、「2030年に向けた世銀グループのビジョン(Forward Look)と役割の強化(Stronger Bank)」について議論が行われた。日本からは岡村大臣官房審議官(国際局担当)が閣僚級制限昼食会と開発委員会本会合に出席し、日本のスタンスについて発言するとともに各国総務と意見交換を行った。日本からは、冒頭で国際開発協会(IDA)第18次増資への貢献にかかるIDA加盟措置法の改正が4月14日に国会で成立したことを報告するとともに、Forward Lookに関して3点考えを示した。第一に、Forward Lookの実行に当たっては、世銀グループの途上国支援において、自然災害やパンデミック等の広汎な危機に対する予防・備え・対応を含む、レジリエンスの強化に取り組むことが重要であり、世銀グループがこの分野で更なる進展をもたらすことを奨励した。第二に、世銀グループが強力なリーダシップを発揮し、他の開発パートナーとのマルチラテラルな連携・強調を進めることや、民間・国内の資金動員を更に高めることへの期待を述べた。第三に、支援国の所得水準に応じて適切な支援を実施することも重要であると述べた。特に、高中所得国(UMIC)向け支援については、IBRDの限られた資源を有効活用する観点から、その支援の範囲を環境等の国際公共財といった分野に集中すべきであり、IFCについてはより所得水準の高い国において民間資金動員をより効果的に実現できることから、積極的なUMICへの関与が正当化されるとした。このような点が達成できれば、日本は、世銀が期待される役割を積極的に果たすためのStronger Bankの実現を支持することが可能となるし、Stronger Bankについては、堅固な合意形成に向けて、しっかりと議論を積み重ねていくことを支持した。投票権見直しについては、参考値を算出する動ファイナンス 2017.617国際会議の概要について2017年4月20-23日開催、於:アメリカ・ワシントンD.C.SPOT

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