ファイナンス 2017年5月号 Vol.53 No.2
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当方の見立てでは、2012年春の時点で7割以上の当局が前者の考えであり、拙速に国際機関化すると、将来的な組織の発展の芽を摘み取ることになることを危惧しました*4。理由の第三として、AMRO(カンパニー)の立ち上げに伴う困難を、「すべて国際機関になっていないから」と短絡的に決めつける考え方にも違和感がありました。立ち上げに当たり上手く行っていないことが多数あるのは事実でした。ただそれは民間組織であることとは全く関係のない別の理由である場合が殆どで、民間組織であることに起因するものはわずかと理解していたためです*5。例えば、第一回で述べたオフィスの銀行残高がゼロであったことに端を発する備品・データの購入の遅れなどは、オフィス設立1年後のこの時点でも続いていました。関係者の事前準備不足と当局間の会議での結論が明確さを欠いていたことが主原因でした。それなのに、国際機関になればたちまちAMROの調査能力も向上してサーベイランスの深度もIMFと遜色のないものになる、というような議論が進んでいました。「開けゴマ」と言えば魔法の力で洞窟の入り口が開くのと同じく、「国際機関化」と唱えればみるみる懸案事項が解決するかのようでした。とても不思議な光景でした。財務大臣・中央銀行総裁会議から国際機関化検討の指示が出る(2012年5月)そうした現場の事情には関係なく、2012年5月のASEAN+3(日中韓)の財務大臣・中央銀行総裁会議は「国際機関化に向けた準備を加速す444444ること444」を事務方に指示しました*6。確かに1年前の2011年5月には、「AMROの法的地位を国際機関へ強化するための研究開始」を指示していましたが*7、その後の1年の間はむしろCMIM(通貨危機時の支援の枠組みの強化)への予防機能の導入を集中的に議論していました。自分の知る限り、いくつかの国際機関を招いて、その法律的構成や業務の聞き取り程度の「研究」でした。「準備」が始まっていることを前提にそれを「加速」するとは、かなり性急な、もしくは、現実離れした大臣・総裁からの指示と思われました。何を目的として国際機関を設立しようとしているかについての検討を欠いている印象でした。ステートメントには盛り込まれませんでしたが、一連の会議の中で、国際機関設立にあたりどのくらいの高い水準を求めるかに関連する議論を記憶しています。国際機関設立協定に関し、各国議会の承認を経て締結することを前提にするのか、行政協定として各国の議会の承認を不要とする(多くの国では閣議決定など行政府の決定だけで足りる)ことを前提にするのかが話し合われたものです*8。発言があった殆どすべての国から、東アジアとして求めているのは、IMF(国際通貨基金)やADB(アジア開発銀行)と同じ水準の国際機関であり、当然スタッフの不逮捕の規定などは盛り込んだ上で、議会の承認を求めるべき、との意見が表明されました。その議論を聞いていて、ASEANと日中韓の国際機関の水準への真剣な思いは伝わってきました。普通の国際機関の設立であれば、ⓐまず国際機関設立の検討と設立協定の作成が行われ、ⓑ設立協定の各国による批准を受けて、ⓒ国際機関が発足し、ⓓ業務開始の手順となります。資料2 国際機関の設立過程(IMF, ADBとAMROの比較)通常の場合(IMF、ADBの例)(注)AMROの場合(注)『新しいIMF』、『アジア開発銀行総裁日記』による。ⓐⓑⓒⓓⓓⓐⓑⓒ国際機関設立検討(+協定作成)の開始(IMF:1943年3月、ADB:1963年12月)各国による設立協定の調印、(議会承認など)批准手続の開始(IMF:1944年7月、ADB:1965年12月)国際機関の発足(IMF:1945年12月、ADB:1966年8月)国際機関としての業務開始(IMF:1947年3月、ADB:1966年12月)民間組織として業務開始(2011年4月)国際機関設立検討(+設立協定作成)の開始(2012年5月)各国による設立協定の調印、(議会承認など)批准手続の開始(2014年10月)国際機関への移行(2016年2月)50ファイナンス 2017.5連 載|国際機関を作るはなし

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