ファイナンス 2017年5月号 Vol.53 No.2
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か。昔、「見てほしいのは着地の精度の高さと鉄棒の離れ技の高さ」とも仰ってましたが、詳しく教えてください。▷内村: 色々ありますけど、やはり演技中に、見ていてあっと思わせるような失敗がないというのは大前提です。失敗がない演技で、体操を知っている人、知らない人が見て「何かいいな」と思う、その「何かいいな」と思わせる演技というのは、やはり美しい演技だと思います。何をもって美しいかというのは人それぞれ違いますけど、体操の場合は、やはり見ている人が「あ、すごいな」とか「どうやったらあんなことできるんだろう」とか、本当にその人たちの心に響くような演技ができれば、それは美しい演技だからこそできるものなのじゃないかなと思うので、人に何か演技で感動を与えられる演技っていうのは美しい演技だと思います。▶神田: 塚原光男ロンドン五輪総監督が「日本には6種目ができて体操選手という考えがある」と仰っており、また、富田洋之さんも北京五輪の3か月後引退宣言で、「種目別ではこだわっていたオールラウンダーの道から外れてしまうから」と発言していました。実は、内村さんは、2012ロンドン五輪の後は、「もし2020が東京五輪になったら東京までやりたいのでそのときはスペシャリストになろうかな」、「リオ直後は1年くらいはオールラウンダーは休養してスペシャリストで」とも言ったことがありますが、オールラウンダーについて、どうお考えですか。▷内村: 体操は六種目あり、一種目だけできたとしても「体操選手」というふうに見られないんじゃないかと思います。僕の個人的意見ですけど。やっぱり六種目できてこそ本当の体操選手だと思うんですよ。だからこそ個人総合で金メダルを取ることというのは、体操選手なら誰でもそこを追い求めているところで、それにプラスして団体があり種目別がある。やはり個人総合ありきの体操だと僕は思いますし、その種目だけできたとしても、その種目での金メダリストは個人総合の金メダリストには適わないと思うので、全部できないと、僕は「体操選手」として胸を張って言えないかなと思います。▶神田: 判定について、記者から「内村さんは審判に好かれているんじゃないですか」という質問があり、オレグは、「航平さんはキャリアの中でいつも最高の得点を取っており、無駄な質問だ、この伝説の人間と一緒に競い合えていることが嬉しい」と素晴らしい発言をされ、オレグにも感動しました。内村さんは、読売のインタビューで、「6種目の価値点(技の難しさ:D得点)ではオレグの方が高かったけど、実施(技の出来栄え:E得点)では評価され勝てることを証明できたし、審判が厳しく実施をとる流れであり、まだまだ戦えると信じている」とも言っています。採点の基準について、まず、全般的なお考えを仰ってください。▷内村: 四年前ぐらいは結構、難度が高い人に点数が出ていたような感じがあったんです。僕らが実際試合で美しい演技をやって負けたりしました。でも僕は、その頃からメディアで「体操は美しくなければいけない」って結構言っていたんですよ。「難度が高いほうが勝つのはおかしい」っていうふうに僕はずっと言い続けてきて、それが多分ようやく上の人に知れ渡ったというか、上の人も「体操は美しくなければいけない」っていうふうに仰っていたので、それがそのまま採点に反映されてきたんじゃないかなっていうのはありますね。当時、日本と中国がすごく団体戦で競っていて、日本は実施のほうで勝負するタイプで、中国は難度で勝負するタイプだったので、その戦いを見ていて、やはり「日本の体操のほうがいい実施だ、あれこそがまさに体操だ」っていうふうに皆に伝えられたからこそ今の採点方法があると思うので、僕達は間違ったことはやっていないという気はしています。▶神田: 確か、ロンドン予選で難易度が当初評42ファイナンス 2017.5連 載|超有識者場外ヒアリング

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