ファイナンス 2017年5月号 Vol.53 No.2
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本稿は、ロンドン所在の世界的シンクタンクであるチャタムハウスの機関紙「The World Today」2017年4月・5月合併号への筆者の寄稿の和訳である。なお、「The World Today」編集部が付した表題「The Samurai spirit」はサムライの精神とサムライの酒、即ち日本酒とのかけ言葉で、いかにも言葉遊びを好む英国の知識人らしい。英国人やドイツ人のビール、フランス人のワインのように、日本酒は日本人の日常的な飲み物であると思われている。しかし実際には、日本酒の消費量は日本全体の酒類の消費量の7%にも満たない。高齢化・少子化の進展に伴い、経済の長期的デフレ化も相まって、ビール及びビール系飲料の消費の方が今やポピュラーになっている。英国がブレグジット(英国のEU離脱)に直面するずっと前から、日本はサケグジット(日本酒離れ)の瀬戸際に瀕していたのだ。日本酒の生産者は、日本国外の消費者に活路を求めつつある。昔の日本酒造りは素朴な造りのイメージが強いものであったが、近年では日本酒造りも高度化が進み、高級ワインを飲み慣れた消費者の舌も唸らせるようなピュアで繊細な日本酒が現れ始めた。英国では従来日本酒は温めて飲まれることが多く、知識人でさえ日本酒は必ず温めて飲むものと思い込んでいるのが現状だが、最近の日本酒については白ワインと同様に摂氏10度~15度程度に冷やして飲むことが推奨されている。ロンドンのワイン愛好者向けクラブの67 Pall Mallでヘッドソムリエを務めるTerry Kandylis氏は最近のインタビューで次のように回答した。「日本酒と相性の良い料理は和食だけと思っている人が多いが、その考えは間違っている。その考えは、フランスワインと相性の良い料理はフランス料理だけと主張するのと一緒。日本酒はアミノ酸や乳酸を豊富に含むので、西洋の食材、例えばパルメザンチーズ、トマト、キャビア、チョコレートとも驚くほど相性がいいのである。」昨年には、尊敬されるワイン評論家のJancis Robinson氏も、自身は日本酒に関してはアマチュアであると断った上で、21種類のプレミアム日本酒を試飲した感想を以下のように記してい-クールジャパンで日本酒の魅力を世界に発信-The Samurai spiritチャタムハウス客員研究員  佐藤 宣之Spot03テムズ川に佇む伊勢志摩サミット乾杯酒・作ざくさとり智36ファイナンス 2017.5SPOT

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