ファイナンス 2017年4月号 Vol.53 No.1
72/78

連 載|超有識者場外ヒアリングますが、我々もその問題意識を共有しています。我が国は、皮肉なことに、資金も設備も不十分な時代に根性でやった世代の努力が今、報われている一方、科学技術振興予算も3倍以上となり、昔より遥かに、資金や設備、海外交流の機会にも恵まれている今、留学希望も減るなど、ハングリー精神が劣化し、研究対象も保守的になり、アグレッシブに競争し、論文も激増させている新興国に追い越されつつあると懸念される先生方が多い状況です。競争と流動性を改善しつつ、優秀な若手研究者の安定的環境を形成する支援と制度改革は様々に展開しており、これは更に工夫されていく予定ですが、激化する国際競争の中、日本の若手研究者の能力と意識をどのように位置づけておられますか。諸外国と比べ、研究室、領域、学部、大学、国境の壁が高く、蛸壺的な印象があり、学問の細分化の中で、我が国のキャンパスは、様々な複合領域連携の試みにもかかわらず、閉鎖感が残ります。先生の宇宙線研究所は、所謂オープンスペースというか、修士若手に同じ部屋で一緒に研究させるという視野を広げる工夫をされており、心強いのですが、他領域、或は海外とのエクスポージャはどんな状況でしょうか。▷梶田 昔と比較すると若い研究者にとってのプレッシャーが大きくなり、自分の研究分野以外をフォローする余裕がなくなってしまったのではないかと思います。我々がやらなければならないのは、若い研究者が他の研究分野に触れ、他の研究者とコミュニケーションをとる場の構築であると思っています。例えば、研究の場を広げる上でセミナーへの参加は重要ですが、若い研究者が自分の研究分野から少し逸れたセミナーには参加しないという現状を憂慮しています。一方で、海外との接点については、私の研究所について申し上げますと、現在基本的に全ての研究プロジェクトにおいて海外の研究者が様々な形で関与しており、若い研究者にとって海外の研究者とのエクスポージャは増えているように思います。(この対談は平成29年2月3日に収録された)68ファイナンス 2017.4

元のページ  ../index.html#72

このブックを見る