ファイナンス 2017年4月号 Vol.53 No.1
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連 載|超有識者場外ヒアリングかと思っています。さはさりながら、17の粒子を説明する理論については、様々な不自然さが存在するなど究極であるとは考えられておらず、超対称性を含め我々の未だ知らないことがあるのではないかと思っています。▶神田 陽子崩壊は理論的に予想される確率をカバーする実験を経てもなお発見されていません。スーパーカミオカンデで20年間見つからないことに不安を感じます。梶田先生がニュートリノに質量があることを示し、標準理論を超えて、大統一理論への橋頭堡が築かれたと認識していますが、逆に、もし、仮に大統一理論が予言する陽子崩壊が本当に存在しないとなると理論体系の方が大きく崩壊するような気もするのですが、そのような可能性はあるのでしょうか、その無の実証はどうやってなされるのでしょうか、そして、その場合、どんな理論的含意があるのでしょうか。▷梶田 難しい問題ですが、一つは、超対称性を仮定すると、物質に働く4種類の力のうちの3つの力(電磁気力、弱い力、強い力)の統一が起こると考えられますが、超対称性は未だ発見されていません。もう一つは、そうした力の統一が起きると仮定すると陽子の寿命を計算することができますが、残念ながらこれまでのスーパーカミオカンデでの観測結果は、陽子崩壊が起こるかもしれないと予言された寿命の範囲に触れ始めているという中途半端な状況にあると思っています。陽子の寿命を観測するのは技術的に難しい課題ですが、科学者として純粋にもう少しで陽子崩壊を観測できるかもしれないと考えており、陽子崩壊はしっかり取り組まなければならない非常に重要なテーマであると思っています。科学界の発展に向けて▶神田 カミオカンデによる超新星1987Aからのニュートリノ観測の契機がペンシルバニア大学からの情報にあり、カミオカンデの時間情報をもとにIMB実験グループが観測を確認し、カミオカンデとIMBのフィジカル・レビュー・レターズの受理がわずか3日の差であり、しかも、IMBがしっかりカミオカンデの情報へのクレジットを明記している話に、競争の厳しさと共に、科学コミュニティーの公正さに感動を覚えます。このようなカルチャーは今も生きているのでしょうか。▷梶田 私はそうしたカルチャーは生きていると思っています。ちなみに、IMB実験グループは当初、同時に発見したと論文に書かせてくれと小柴先生に電話を掛けてきましたが小柴先生が事実と違うとして受け入れず、IMB実験グループが納得したという経緯がありました。▶神田 梶田先生は、我が母校の小柴―戸塚の偉大な伝統の血統ですが、τタウニュートリノ検出に有効である原子核乾版自動読取技術は丹生教授の名古屋大の業績ですし、宇宙ニュートリノを南極氷の活用で観測するアイス・キューブ実験には千葉大が貴重な貢献をしています。特に名大はこの超有識者シリーズにも度々、登場して頂いています。このような本邦物理の裾野の広さと多様性は素晴らしい強みなのですが、このような環境を形成することができた我が国物理学界、或は、それぞれのスクールのカルチャーや人材育成システムの特性は何だったのでしょうか。▷梶田 まず一つは、カリスマと呼ばれるような先生が学問のスタイルを確立し、それが弟子に継承されるということがあると思います。さらに、研究所となるとまた話は異なるものの、大学の学部や物理教室では自由な発想を奨励する伝統があることが背景にあるのではないかと思います。▶神田 『ニュートリノで探る宇宙と素粒子』でも、ニュートリノ不足をニュートリノ振動で説明するカミオカンデのデータと、先生の1988年論文に、世界の学界は冷淡な反応を示したことを記されています。先生は、常識を超える新発見の認知には、他の実験による確認が必要とする伝統があるとされる一方、同じ実験において、確率を十ファイナンス 2017.465超有識者場外ヒアリング61

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