ファイナンス 2017年4月号 Vol.53 No.1
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連 載|超有識者場外ヒアリング後からを精緻に分析することよりも、宇宙の源、宇宙の外、つまり、ビッグバンは何が生んだのか、その前はどうだったのかです。勿論、様々な時間・空間概念の仮説が生まれていますが、ビッグバン以前は光もなく観測できず、検証できない以上、科学の領域を超えると多くの偉大な学者に言われました。それでは、失望を禁じえません。実現可能性はともかく、科学の射程、また、先生のアンビションの領域はいずこまであるのでしょうか。存在の本源への好奇心を抑えることができるものでしょうか。▷梶田 私は実験をやっている人間ですので、誤りかもしれませんがビックバン以前は基本的に観測できないだろうと考えています。近頃はそうした内容を物理法則・数学に基づいて研究されている先生もいらっしゃいますが、私自身はビックバンを超えた範囲については真剣には考えていません。しかし、宇宙の根源にかかわる意味では、宇宙を加速膨張させていると考えられているダークエネルギーは、偶然非常に良いパラメータで我々の現在の宇宙が形成されており、偶然にしては出来過ぎているようで、何か非常に奥深いものを意味しているのかもしれません。▶神田 私は、昔、ダークマターがニュートリノではないかという希望をもっていた一人ですが、現代科学はこれを否定しています。そうすると宇宙の僅か4%の部分について辻褄のあう説明をするだけのために、それ自体、極めて重要で偉大なことですが、膨大な英知と資源を投入しているとしたら、市井の民は理解しにくいかもしれません。我々が期待している先生の宇宙線研等の研究が、ダークマターの正体に接近する可能性はないのでしょうか。何か期待できる仮説は見つかりつつあるのでしょうか。▷梶田 素粒子物理学の世界において、フェルミオンとボソンの入れ替えに対応する超対称性という概念がありますが、超対称性粒子の一群の中の最も軽い粒子は安定粒子になるためダークマターであるという仮説は、不自然な仮定を置かずとも立てられることから数十年来支持されています。こうした、いわゆる「自然な」仮説をガイドラインとして、世界中でダークマターに関する研究が続けられてきましたが、未だに見つかっていないというのが現状です。▶神田 物質の基本粒子を見極める素粒子の解明は、革命的ともいえる大変な進化を遂げてきましたが、他方、その旅路は、私には、蜃気楼を求める無限の道程にもみえます。神の悪戯のマトリョーシカと私は表現していますが、見つけたら、更に小さな粒子が見つかり、それが、美しく構成される、実は、一種の時間概念同様、無限の構造のような気もします。現在、物質を構成するのはアップクォーク、ダウンクォーク、電子とされますが、先生は、これらが最小粒子と感じられていますか。物質のもとでも第二世代、第三世代のクォーク、レプトン、そして力を伝える光子等や、質量を与えるヒッグス粒子を含めると、素粒子は17くらいあると思いますが、いかにも多すぎる、より小さなものが組み合わさってそれらができているような気もするのです。勿論、実証はできないので不用意なことは仰ることはできないでしょうけれども、先生が自然と向き合ってきた経験からの印象としていかがでしょうか。素粒子の解明というのはどのような方向に向かうのでしょうか。▷梶田 素粒子の大きさについて、私個人の感覚としては現在知られている17の粒子は究極的なところまで到達しているのではないかという印象があります。さらにその下のレベルにストリングがあるという仮説もありますが、それはとてつもなく小さいスケールで存在するものであり、それまでの間にあらたな素粒子の大きさのスケールは存在しないのではないかと思っています。粒子を点粒子として扱う現在の理論は非常に上手く物事を説明することが可能であり、更なる最小粒子が存在する実験的証拠は今後得られないのではない64ファイナンス 2017.4

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