ファイナンス 2017年4月号 Vol.53 No.1
67/78

連 載|超有識者場外ヒアリングことですが、それほど深く考えていた訳ではないものの思い返してみますと、一つには大学3年の終わり頃まで弓道をやっており、毎日論文を読んでいるような自分が想像できず、自分は理論をやるようなタイプの人間ではないと思ったこと、また、数学など勉強も遅れていましたことから、実験を選びました。もう一つの御質問について、私から特にこうすべきと言うことはないのですが、やっていて良かったと思うことは、私がずっと関わっておりました神岡の実験は理論の先生も相当関心を持ってくださり、理論と実験の専門家が一緒に議論する研究会が頻繁に行われていました。そうした場において、理論の先生が今何を考え、何を求めているかを知る機会が多くあり、上手くキャッチボールができていたように思います。▶神田 先生の誠実で真摯なプロフェッショナリズムが『ニュートリノ小さな大発見』等において、開陳されています。即ち、研究の過程で理解できないことがあれば、うやむやにせずに、しっかりと何がおかしいか追及する、そして、仮説の検証には、ありとあらゆることを疑い、その疑いをはらすことを徹底される態度です。実際に、μ(ミュー)ニュートリノの欠損がソフトの誤りでないことを確認する作業に1年間も費やされました。STAP事件は論外ですが、先生と近い領域で申し上げますと、OPERAがCERNでニュートリノが光速を超えたことを発見したという早とちりの誤りと対極をなします。確かに、一刻も早いジャーナルへのネット投稿を競争する現在の方が厳しい環境ではありますが、しかし、真実を見極めずに、とりあえず発表することが増えているのではないかと危惧します。メディアも判断能力がなく、キャリーした後、撤回することが増えています。先生は真実を追求する倫理にかかる現下の科学界の状況についてどのようにみておられますか。▷梶田 STAP細胞の事件が論外というのは私も同感です。一方で、私もそれほどしっかりとフォローしている訳ではございませんが、CERNでニュートリノが光速を超えたことを発見したという発表については、「ここまで検証しても間違いはみつからず、最終的に間違いである可能性は否定できないものの、大きな問題であるため発表しておくべきではないか」という慎重な検討の結果、論文の発表に反対して名前を掲載しない研究者もいた中で発表されたという経緯がありました。しかし、やはり論文が発表されると科学界とは異なるところで伝播し、大騒動になってしまったという印象があります。難しいと思いますが、全てを大発見として取り上げない姿勢がメディアにももう少しあればよいと当時は思いました。真実の追及の姿勢に関しては、30年の間、少なくとも宇宙線の分野についていえば、研究のクオリティ、即ち誤った研究結果を発表する確率は非常に下がっており、おそらく良い方向へ向かっているのではないかと考えています。ただ、そうした状況は、研究分野によって異なるのではないかと思います。素粒子実験の分野もおそらくそうですが、特に宇宙線の分野では、一刻も早く研究結果を発表しなければならないといっても競争相手がそれほど多く存在するわけではなく、また競争相手がどのような研究をしているかについても凡そ見当がつきます。したがって、早く発表することよりもきちんとした結果を発表することに注力されていると思います。素粒子、宇宙が導く人類の 知見の可能性▶神田 『ニュートリノで探る宇宙と素粒子』でも記されている通り、ビッグバン時に最も多く作られ、現在の宇宙を充たしているニュートリノの解明を通して、宇宙の成り立ちにかかる理解が進むことは素晴らしい可能性です。本シリーズに登場された小林誠先生のCP対称性の破れの業績は、宇宙が物質でできている不思議の解明に画期的であり、日本のKEKB等がその予言の一部を実証しましたが、ニュートリノのCP対称性の破れの研究が宇宙の組成を説明してくれることも期待しています。他方、我々の永遠の問は、ビッグバン直ファイナンス 2017.463超有識者場外ヒアリング61

元のページ  ../index.html#67

このブックを見る